130億年以上離れた、これまででもっとも遠方のクエーサーが発見されました。

この記録破りのクエーサーについては、科学雑誌『Astrophysical Journal Letters』への論文掲載が決まっていて、第237回アメリカ天文学会でも発表されます。

非常に初期の宇宙で見つかるクエーサーの存在は、既存の超大質量ブラックホールの形成メカニズムに影響を与えるものです。

あまりに早く形成される超大質量ブラックホール

クエーサーとは、古い宇宙に見つかる非常に明るい天体のことです。

クエーサーの中心は超大質量ブラックホールで、これを動力にしてクエーサーを取り巻く銀河は猛烈な勢いで星々を生み出しています。

今回発見されたクエーサーは「J0313–1806」と名付けられています。

その中心にある超大質量ブラックホールは、太陽の16億倍の質量を持ち、天の川銀河全体の1000倍以上の明るさで輝いています。

発見された領域は、ビッグバンから6億7000万後の宇宙だと推定されており、これまで発見されていたもっとも古いクエーサーの記録をおよそ2000万年更新。

それにも関わらず、「J0313–1806」はその規模が2倍近く大きいのです。

このような非常に初期の宇宙に見つかる超大質量ブラックホールの存在は、それが形成されるための理論モデルに疑問を投げかけます。

「最古の超大質量ブラックホール」を観測! ビッグバンからわずか6億7千万年後に生まれていた
(画像=超大質量ブラックホールとそれを取り巻く降着円盤。 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

従来の超大質量ブラックホールが形成されるメカニズムでは、主に2つのモデルが考えられていました。

第1のモデルは、初期宇宙では非常に巨大な星が誕生しており、それは巨大であるがゆえに短命で、短期間で崩壊して巨大なブラックホールを生み出していると考えられていました。

この巨大なブラックホールが合体していくことで、クエーサーとなるような超大質量ブラックホールが形成されるというのです。

第2のモデルでは、超大質量ブラックホールは、星の密集した集団(星団)が崩壊して生み出されると説明しています。

しかし、いずれのプロセスでも形成にはかなり長い時間を必要とします。

ビッグバンから7億年未満という期間内では、形成することは不可能です。

つまり、今回の発見は、こうした従来の2つの理論モデルを否定し、まったく異なるメカニズムから超大質量ブラックホールが形成されていることを示しているのです。

星の崩壊を必要としないブラックホールの形成

では、どうやって超大質量ブラックホールは誕生しているのでしょう?

ここで考えられているのが、第3のメカニズム、大量の原始的な冷たい水素ガスが直接崩壊して超大質量ブラックホールの種となるブラックホールを生み出しているというものです。

クエーサーは宇宙に大量の星を生み出した動力源となるものです。

「J0313–1806」の明るさは、そのブラックホールが毎年太陽質量の25倍に相当するものを飲み込み、そこで生み出されるエネルギーによって、光速の20%に相当する勢いで、強力なイオン化ガスの放出を行っていると見られています。

これにより、このクエーサーをホストする銀河では、私たちの天の川銀河の200倍近い速度で新しい星を生み出されています。

これをスターバースト銀河と呼びますが、この星形成率は同種の銀河の中でも特に激しい段階のもので、この銀河から星形成物質がなくなるのは時間の問題と考えられています。

凄まじい勢いのガスの流出は、最終的には銀河の星形成を止める原因にもなるのです。

「最古の超大質量ブラックホール」を観測! ビッグバンからわずか6億7千万年後に生まれていた
(画像=活発に星を生む2つのスターバースト銀河。M82とM81。 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

現在の宇宙、つまり地球に比較的近い宇宙には、クエーサーと呼ばれる天体は発見されていません。

これらのプロセスは、宇宙に大量の星が存在する理由と説明するとともに、現在見られる銀河の多くが星形成を停止させている理由も説明しています。

「J0313–1806」の猛烈な星形成率を見るに、このクエーサーはまもなく消光することになるだろうと考えられています。

クエーサーの消光が、宇宙の歴史の中で、どれくらい早くから始まっていたかはまだわかっていません。

しかし、今回の発見はそのクエーサーの消光が、非常に早い段階で起こっていた可能性を示す、最初の証拠になるでしょう。


参考文献

ALMA


提供元・ナゾロジー

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