野球やサッカー場でよく、観客によるウェーブ・パフォーマンスを目にします。
しかし、このウェーブをやるのは人間だけではありません。
このほど、サルファーモリー(Sulphur molly)という淡水の小魚が、捕食者から身を守る目的でウェーブを起こすことが判明しました。
群れで集まり衝撃波のようなウェーブを起こすことで、鳥の攻撃を防いでいるようです。
研究は、12月22日付けで学術誌『Current Biology』に掲載されています。
ウェーブによって鳥の攻撃頻度が減少
サルファーモリーは、絶滅危惧種に指定されているメキシコ固有の淡水魚です。
ほとんどの魚にとって有害な硫黄(sulphur)の濃度の高い水系に生息することから、この名前がついています。
そして、サルファーモリーのいる所では、簡単にウェーブ現象が見られます。
鳥だけでなく、水辺にいる人に対しても敏感に反応して、ウェーブを起こすためです。
研究主任の一人で、ライプニッツ淡水生態学・内水面漁業研究所(IGB-Berlin・独)のイェンス・クラウゼ(Jens Krause)氏は、こう言います。
「膨大な数の魚が一緒になって波を繰り返し起こすのに気づいたときは、とても驚きました。
1平方メートルあたり最大4000匹が集まっており、ときには1つの波に数十万単位の魚が参加することもあります。
魚はこの波を最大2分間繰り返すことができ、およそ3~4秒に1回、波を発生させていました」
以下に見られる白い波動が、サルファーモリーによるウェーブです。
同チームのデイビッド・ビールバッハ(David Bierbach)氏は「最初は、彼らが何をしているのかよく分かりませんでした。それが波であると分かると、その機能が何であるのかが気になりました」と話します。
研究チームは、川の周辺に魚食性の鳥が多いことから、何らかの防衛手段ではないかと考えました。
そこで、サルファーモリーの作る波が、捕食者に対してどのような効果があるのかを調査。
その結果、実験的に誘発させたウェーブは、波がないときに比べ、鳥が攻撃してくるまでの待ち時間を2倍にし、攻撃頻度を大幅に減少させることが判明しました。
また、鳥による捕獲率もウェーブの数が増えるにつれて低下し、さらに、止まり木を変えたり、攻撃対象を別のエリアに変更する頻度が多くなっていたのです。
このことから、ウェーブは、捕食者に対する防御機能があると推定できます。
今回の発見は、ある集団行動が動物の捕食リスクを低減させるという因果関係を示した初めてのものです。
本調査の成果は、集団行動の研究にとって重要な意味をもつとチームは述べています。
クラウゼ氏は、次のように説明します。
「科学者たちはこれまで、主に個体間の相互作用から集団的パターンがどのように生じるかを説明してきましたが、そもそもなぜ動物がこうしたパターンを生み出すのかは不明でした。
私たちの研究は、いくつかの集団行動パターンが、捕食者に対する保護に非常に効果的であることを明らかにしています」
その一方で、鳥の攻撃を防げる正確な理由は、まだ分かっていません。
ウェーブに怯えているのか、それとも攻撃対象が定まらなくなり、混乱に陥るのか。
チームは今後、こうした疑問を解明していく予定です。
参考文献:
These fish work together by the hundreds of thousands to make waves
Some fish start Mexican waves to keep themselves safe from predators
元論文:
Fish waves as emergent collective antipredator behavior
提供元・ナゾロジー
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