実は13世紀末から19世紀にかけて、地球は小氷期と呼ばれる過去1万年間でもっとも寒い期間の1つでした。

この小氷期がなぜ発生したかについては、未解決の問題であり決定的な原因は明らかとなっていません。

しかし、マサチューセッツ大学の新しい研究は、意外なことに小氷期が始まる直前に非常に温暖な時期があり、それが小氷期を起こすきっかけになっていたと報告しているのです。

矛盾した話のようにも感じますが、温暖化が地球全体の寒冷化の引き金になる可能性があるようです。

研究の詳細は、12月15日付でオープンアクセスジャーナル『Science Advances』に掲載されています。

目次

  1. 14世紀に始まった地球の小氷期
  2. 温暖化が急激な寒冷化を招いた
  3. 太陽活動と地球の空気が綺麗すぎた問題

14世紀に始まった地球の小氷期

一般的なイメージでは、氷河時代(氷河期)というと吹雪の中をマンモスが歩き回り、地球全土が凍結しているような寒い時代を思い浮かべてしまいますが、科学的な分類は少し異なります。

氷河時代を定義する研究は、主に雪氷学という分野が行っていますが、それによると氷河時代は北半球と南半球に巨大な氷床が存在している時代と定義されています。

現代は、南極やグリーンランドに巨大な氷床があり、この定義に当てはまるため地球の歴史の中では氷期にあたるのです。

氷期の中でも寒暖差は、現代は氷期と氷期の間にある間氷期と呼ばれる比較的温暖な時期にあたります。

しかし、そんな中でも急激に寒冷化が進む時期が存在します。

そして、過去1万年間の中でも非常に寒さが厳しかった「小氷期」と呼ばれる時代が、ほんの600年前から100年前という、つい最近起こっていたのです。

厳密な期間についてはいくつか議論がありますが、それはだいたい13世紀末から19世紀にかけて続いていたと考えられています。

この期間、人類は非常に厳しい寒さのために、作物の不作や漁が行えないなどの飢饉や、パンデミックに遭い、何百万人もの人々が悲惨な死を遂げたとされています。

こうした状況は、絵画の中にも現れているといいます。

16世紀の絵画には一面雪に覆われ、凍結した川や池でアイススケートを楽しむ人々の姿が描かれています。

現代の感覚で言えば、いくら凍結しているとはいえ、池でアイススケートをしたり、凍結した川を歩いて渡るのは危険な感じがします。

一時的な温暖化が13世紀末の「小氷期」に関わっていた
(画像=ピーテル・ブリューゲル作「雪中の狩人」1565年 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

しかし、14世紀から20世紀にかけては、寒冷化が進んでいたため、冬は川が完全に凍結した状態の場所が多くありました

18世紀のアメリカでも、ニューヨーク湾が完全に凍結し、マンハッタンから南にあるスタテンアイランドまで凍った海の上を歩いて渡ることさえ可能だったといいます。

一時的な温暖化が13世紀末の「小氷期」に関わっていた
(画像=マンハッタンとスタテンアイランドの位置関係 / Credit:Google、『ナゾロジー』より 引用)

では、なぜ地球はそれほど寒い気候に変化したのでしょう?

そのメカニズムは、ずっと未解決の疑問となっていました。

ただ、この小氷期が始まるすぐ前は、地球は温暖な気候にあり、「中世の温暖期」とも呼ばれていたのです。

今回の論文の主執筆者であるマサチューセッツ大学のフランソワ・ラポワント(Francois Lapointe)氏とレイモンド・ブラッドリー(Raymond Bradley)氏は、北大西洋海面水温の3000年間の遷移を慎重に調査し、2020年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表しています。

このとき彼らは1300年代後半の非常に温かい時期から、わずか20年で前例のない寒冷状態へ突然気候が変化していたという驚きの事実を見つけたのです。

暖かかったはずの地球になぜ、そんな急激な気候変動が起きたのでしょう?

研究者はその理由が、この温暖な気候にあったというのです。

温暖化が急激な寒冷化を招いた

彼らは詳細な海洋記録を用いて、このときの海水温の動向を調査しました。

すると、1300年代後半に、温かい海水が異常なほど北上して移動していたことが判明し、それは1380年頃にピークを迎えていました

その結果、グリーンランドと北海南側の海域は、通常の時期よりずっと暖かくなっていたのです。

ラポワント氏は「これまで誰も、このことを認識していませんでした」と指摘します。

通常、熱帯から北極へは「大西洋子午面循環(AMOC)」と呼ばれる温かい水の流れがあり、これが地球の海を循環してコンペアベルトのようにつないでいます。

一時的な温暖化が13世紀末の「小氷期」に関わっていた
(画像=大西洋子午面循環(AMOC) / Credit:en.Wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

これは、熱帯から流れてきた温かい水が、北欧の沿岸を北上して、北極海域の冷たい水に出会い、熱を失って密度を増すことで海底に沈み、今度は深層水となって南下することで世界を巡る循環を作り出しています。

しかし、1300年代後半になると、この大西洋子午面循環が大幅に強まり、通常よりもはるかに多くの温かい水を北上させるようになりました

その結果、北極の氷が急速に失われ、1300年代後半から1400年代にかけて数十年間で、大量の氷が北大西洋に流出したのです。

これは北大西洋の海水を冷却させるだけでなく、塩分も希釈してしまったため、最終的に大西洋子午面循環は崩壊しました

そして、この大西洋子午面循環の崩壊が、その後の寒冷化の引き金になったというのです。

現代でも、1960年代から1980年代に掛けてグリーンランド上空に高い気圧が維持されたことで大西洋子午面循環が強まったという報告があります。

これは小氷期の直前に起きた大気状況とも関連している可能性があると、研究者は考えました。

では、1380年代にグリーンランド周辺の高気圧を引き起こした原因はなんだったのでしょう?

太陽活動と地球の空気が綺麗すぎた問題

ラポワント氏はその原因を樹木から発見しました。

木の年輪に残された放射性炭素同位体測定から、1300年代後半に異常に高い太陽活動の記録が見つかったのです。

一時的な温暖化が13世紀末の「小氷期」に関わっていた
(画像=1300年代末に太陽活動は活発化していた / Credit:canva、『ナゾロジー』より 引用)

この現象は、グリーンランド上空に高い高気圧をもたらす傾向があります。

また、この年代は地球上で火山噴火が少なく空気中に灰がすくなくなったため、大気がきれいだったということがわかっています。

これは太陽エネルギーの変化に地球がより敏感に反応しやすい状態だったと考えられます。

そのため、太陽活動の活発化に伴い、北大西洋の大気循環も大きな影響を受けたのです。

こうした温暖な気候が、後に地球全体の寒冷化につながるとなると、気になるのは現代の温暖化が同様の現象を引き起こる可能性があるかということです。

研究者は、その可能性はかなり少ないのではないかと考えています。

その理由についてラポワント氏は、すでに温暖化の影響で、北極海の海氷がかなり少なくなっているため、1400年代始めにあったような大規模な海氷の移動に伴う現象がおきづらい状態になっているためだと指摘します。

ただ、アラスカ北部では、過去20年間で融氷によって、海に流れ込む淡水が40%も増加しているため、これが北大西洋の極域に流れ込むと、海洋循環に強い影響を与える可能性があります。

またグリーンランド上空の高気圧も、過去十年間で頻発し、氷の融解に関連づいています。

今回の研究結果が現代の気候モデルに与える影響は、まだ定かではありません。

ただ温暖化が海流を変化させ、結果的に温暖化だったのに突然小氷期が起きるというような、飛んでもない変化を引き起こす可能性があるようです。

温暖化は単純に気温があがるというだけの変化に留まらない可能性が高いのです。

今後地球の気候がどのように変動するか、注意していく必要があるでしょう。

参考文献
Winter is coming: Researchers uncover the surprising cause of the Little Ice Age

元論文
Little Ice Age abruptly triggered by intrusion of Atlantic waters into the Nordic Seas

提供元・ナゾロジー

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