宇宙空間は真空で音が伝わりません。
でも、もし音の伝わる空間だったらどうなるでしょう?
こうした思考実験で、気になるのが太陽の騒音です。
太陽活動によって生じる運動エネルギーが、音エネルギーへ変換されて光のように伝わってきたとしたら、地球はどうなるのでしょうか。
耳障りな太陽の不協和音は、夜明けとともに始まり、爽やかな風の音も、鳥のさえずりもかき消してしまい、目の前の人と会話するのも困難になるかもしれません。
そんな日常は考えたくありませんが、そんな太陽の音が届く地球を想像してみましょう。
太陽の騒音問題
もし地球の大気圏内と同じように、宇宙で音が伝わると仮定した場合、太陽は恒久的なホワイトノイズの発生源になります。
最近太陽表面を撮影した映像が公開されましたが、そこではテキサス州サイズ(日本国土の1.8倍)のプラズマのあぶくが100万個以上、絶えず沸騰しているような状態でした。
これは途方も無い音響エネルギーを放っています。
サウスウエスト研究所の太陽物理学者Craig DeForest氏は、もし太陽の音が地球まで伝わったなら、地上では日中絶えず約100デシベルの騒音が鳴り続けるだろうと話します。
100デシベルというと、すぐ近くの雷の音、ロックコンサート会場、ガード下の騒音レベルです。
滝壺の近くは90デシベルと言われているので、こうなると日中は近くの人と会話することさえ困難な状態になるでしょう。
この騒音は様々な周波数成分が含まれるため、鈍い轟きのように聞こえるだろうと考えられます。
夜になれば、太陽は地球の背に回るため、光と同様に騒音も収まるかもしれませんが、日中常にうるさいというのは溜まったものではありません。
騒音に包まれた地球
光と異なり音の伝わる速度は非常に低速で、秒速340メートルしかありません。
太陽で発せられた光が地球に届くには約8分かかりますが、太陽の音が地球に届くまでには、実に14年近い時間がかかる計算になります。
そんなに音は持続するのか? と疑問に感じる人もいるでしょう。
確かに、もう少し突っ込んで考えた場合、音は大気などの媒体を伝わるため、移動距離に応じて減衰していきます。
非常に低音ならかなりの長距離を伝わる可能性はありますが、太陽の音はほとんどがコロナの外側まで響くことなく吸収され、熱に変換されてしまうと考えられます。
今回のシミュレーションは、もし宇宙で音が伝わり、さらに媒体に吸収されることがほとんどなければという仮定の話になります。
しかし、もしそうやって太陽の騒音が地球に響いていた場合、地球上の生命は聴覚が発達しなかった可能性が高いと考えられます。
絶え間ない轟音の中で進化した生物は、有用な音がまったく聞き取れない可能性が高く、聴覚はあっても役に立たないか、まったく異なる用途の器官になっていたかもしれません。
そうなると、鳴き声などの器官も異なる進化を辿ることになり、もはや生物自体が現在とは全然別物になっているかもしれません。
そう考えると、宇宙に音が響かなくてよかったと思えてきますね。
reference: astronomy / written by KAIN
提供元・ナゾロジー
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