ホースビットローファーと呼ぶのが正しいようですが、少々長いので『ビットローファー』と略させていただきます。
老舗メゾンの『GUCCI』が本家本流だと思いますが、洋の東西を問わず様々なメーカーから販売されています。しかし、スリッポンタイプで甲部分に金具がついていれば全て『ビットローファー』と呼ぶのはいかがと思うので、ここではグッチ製を中心に、その対峙品として相応しい『ビットローファー』を紹介しながら、本家の魅力を再確認してみたいと思います。
目次
誕生から現在まで。ビットローファーに魅了される理由。
結局、グッチに行き着く。グッチのビットローファーをご紹介。
誕生から現在まで。ビットローファーに魅了される理由。
ビットローファーは、コインローファーであればスリットの入ったベルトを取り付ける箇所に金具のアクセントを用いたデザインのことです。この金具はホースビットと呼ばれ、そもそも馬具メーカーとして創業した『GUCCI』ならではの意匠として使われるようになりました。
ホースビットは1950年代はじめ女性用のバッグに装着されると、シャープでありながら愛らしいデザインが話題になりたちまち人気シリーズとなります。そのホースビットを男性用ローファーに取り付け、1953年に発売されました。
それまでのローファーと言えば誰もが思い浮かべるデザインで、学生のものという印象が拭えませんでした。しかしそれを大人が履ける、大人こそ相応しいローファーとして『GUCCI』が仕掛けたのでした。
またハリウッドの名優フレッド・アステアに商品提供して露出を高めるなど話題づくりも巧妙で、ヨーロッパよりもアメリカでの人気が高まりました。『クレイマー・クレイマー』の劇中でダスティン・ホフマンが着用するなど、裕福なアメリカ人を象徴するアイコンとしても話題になりました。
『GUCCI』のビットローファーは、年代ごとにデザインをマイナーチェンジしてアップデイトを重ねています。ですから1足あれば事足りるのではなく、新作が出るたびに気になって仕方がない困った存在でもあります。クリエイティブ・ディレクターがトム・フォード時代のゴージャスでセクシーなビットを持っていても、現在のアレッサンドロ・ミケーレのつくりだすデカダンスなビットにも惹かれる、魅惑たっぷりのローファーなのです。
結局、グッチに行き着く。グッチのビットローファーをご紹介。
1953年の初リリースから現在にいたるまで、何種類のビットローファーが誕生し、どれほどの人々を魅了してきたのでしょうか。時代に応じてフォルムやデザインを変えるだけなく、素材使いにも独特の提案をして私たちを喜ばせています。時代や世相を反映するというよりも、それらを従え逆に影響を及ぼしたと言ってもいいのかも知れません。
出来るだけ年代を追いながら、デザインや素材使い、そして言葉では表現しきれない雰囲気、ニオイといった違いまで紹介できればと思っています。
1953コレクション
2013年に誕生から60周年を記念して『1953コレクション』が発表されると大きな話題になりました。当時のモノ作りをリスペクトし『ビットローファー』といえば誰もが思い浮かべるフォルムを見事に復刻しました。まさにコインローファーというべきスタイル、その完成形を損なうことなくホーズビットが装着されています。当時の資料を探すことはなかなか至難ですから、こうした邂逅はありがたい限りです。
しかし、この復刻は単なるリバイバルではありませんでした。当時では考えらえない素材使いや、色使いで新しい解釈を提案してくれました。特に目を引いたのはクロコダイルなどハードな皮革を纏ったもの、さらにはエナメルを用いたものなどでした。モチーフは当時に得ながら、現在ならではの可能性を融合させた品格を示してくれたのです。
しかし、しかし何と言っても驚かせてくれたのは『スタッズ付き』ではなかったでしょうか。素材を変えるということに留まらず、スタッズを打ち込むという大胆な発想。ブランドの持つ高い品格とは逆方向のロックな味付けですが、それすらも上品に仕上げて見せるグッチならではのオリジンを感じることが出来ると思います。
カジュアル&アウトドアテイストのビットローファー
タフなコマンドソールを装着したシリーズもユニークな提案でした。アッパーはそれまでビットローファーを残しながら、ソールだけはやや肉厚なラバーソールで仕上げて見せました。コバのはり出しも従来品よりは大きくとっていたかも知れません。モカ縫いなどのステッチも素朴に仕上げていたように感じました。
素材もスエード使いが多く、そのためデニムやチノとコーディネートする提案が主流でした。このシリーズの中で特にユニークだったのが、本来ローファーと呼んではいけない?ミドルカットのデザインでした。アウトドアテイストが強く、ケッコウなボリューム感があるためでしょうか、またコーディネートは難しかったのか、最近は見かけなくなりました。しかしそうなると、とたんに懐かしく感じるもので、今だったらこうしよう、ああしてみようと懐しむ存在になっています。
番外編 バンブーローファー
今回のテーマからは少し脱線しますが、ビットローファーの発展形?としてリリースされたバンブーシリーズを紹介させていただきます。このシリーズはホースビットがつけられて箇所に、バンブー(竹製)のチャームをとりつけたものです。ホースビット同様にレディースのバッグに取り付けたバンブーチャームが評判になり、ローファーやドライビングシューズとして展開します。
ホースビットのような金属的なアクセントではなく、竹が持っている奥ゆかしい輝きが上品なアクセントとなってぃます。メンズだけでなくレディースでも展開していました。こちらも数シーズンリリースされたようですが定番とはならなかったようです(レディースバッグは継続中)。復刻を待ちたいシリーズです。
新生グッチが放つ 毒のあるビットローファー
現在グッチのクリエイティブディレクターを勤めるアレッサンドロ・ミケーレはグッチのアーカイヴを誰よりも知る存在なのだそうでう。それは資料や画像だけでなく、それらが放つツヤやにおいも含まれていると言われています。その上で切り刻み、解体することで芯に当たる部分を把握できたのでしょう。
ですから彼の異彩を放つデカダンな提案は、グッチらしからぬと言われながらどこまでもグッチなのです。それはビットローファーというアイコンでも十分にくみ取ることが出来ます。何といってもファー付きのサンダルには肝を冷やされる思いをしました。そして惜しみない称賛を聞くこともできました。
これまでホースビットとともにデザインを支えてきたモカ縫いを排したデザインや、Uチップを落としこみドレスシューズとしても使えそうな研ぎ済まされたまで。無国籍でありながら、それはグッチという国籍しかありえないプライドを内包しているのだと感じます。
革靴しかもレースアップシューズを素足で履くという解釈が当たり前になっています。これまでタブーであったスーツにローファーという境目も消えつつあります。素材やシーンを選べば、スーツに素足履きのビットローファーという選択も許される日が来るのかも知れません。しかしそれはあくまでグッチのビットローファーに限られますが・・・・。