海外の科学ニュースサイト「The Conversation」にブラックホールに関する素朴な疑問が寄せられました。
「人間は研究のためにブラックホールに入ることは可能なんですか?」
この疑問に対して、アメリカ・グリネル大学の二人の物理学者、レオ・ロドリゲス助教授とシャンシャン・ロドリゲス助教授が明快な回答をしています。
通常ブラックホールに近づいた場合、人はスパゲッティ化現象という問題にぶつかり、引き伸ばされて死んでしまうとされています。
しかし、彼らの答えによると、スパゲッティ化を回避する方法があるといいます。それは一体どういうものなのでしょう?
目次
2種類のブラックホール
スパゲッティ化現象が起きるブラックホールと起きないブラックホール
その他の注意するべき問題
2種類のブラックホール

宇宙には、実はさまざまな種類のブラックホールが存在しています。
今回の議論に関しては、大きく分けて2つのタイプのブラックホールが問題になります。
1つは回転せず、帯電もしていない電気的に中性な太陽質量のブラックホール。
2つ目は、回転していて帯電しており、太陽の数百万倍から数十億倍というとんでもない質量を持った、超大質量ブラックホールです。
この2つのタイプのブラックホールは、質量の差に加えて、区別するためにもう1つ重要な要素があります。
それが中心から「事象の地平線(または地平面)」までの距離を示す、シュバルツシルト半径です。

事象の地平線とは、飲み込まれたら二度と帰ってくることのできないブラックホールの境界を言います。
このラインより内側は、引力が強すぎるために宇宙で最速を誇る光でさえ抜け出すことはできなくなります。
事象の地平線の内側へ飲み込まれたものは、私たちの既知の宇宙から永遠に消え去ってしまうのです。
しかし、私たちがブラックホールに近づいた場合の問題は、この事象の地平線へ至る前の段階で起きると言われています。
それがスパゲッティ化現象と呼ばれるものです。
スパゲッティ化現象が起きるブラックホールと起きないブラックホール
事象の地平線となるシュバルツシルト半径のサイズは、ブラックホールの質量に依存しています。
そのため太陽質量のブラックホールの場合、事象の地平線はかなり小さくなり、シュバルツシルト半径の距離はだいたい3キロメートル程度です。
これが天の川銀河の中心にあるような、太陽の400万倍という質量を持った超大質量ブラックホールの場合、シュバルツシルト半径は約1200万キロメートルという大きさになります。
これは太陽の半径のおよそ17倍という大きさです。
そのため恒星質量のブラックホールに人が近づいた場合、事象の地平線を通過する前にブラックホールの中心に非常に近づくことになります。
強力な重力源から、3キロメートル程度というあまりに近い距離に来た場合、重力が生み出す引力はわずかな距離でも指数関数的に増大します。
これはブラックホールが引っ張る力が、自由落下をはるかに超える力で人を引っ張ることになり、頭とつま先の間だけでも、10億倍も引力の強さが異なります。
このため、恒星質量のブラックホールに人が近づいたとき、人の体はスパゲッティのように細長く引き伸ばされてしまい、生き残ることはほぼ不可能になってしまうのです。

これがスパゲッティ化現象と呼ばれるものです。
一方、超大質量ブラックホールは重力源の中心ポイントから、はるかに遠い場所に事象の地平線が存在します。
そのため、ここに人が近づいても、頭とつま先の間で起きる重力の差はほぼゼロです。
ここでは人体がスパゲッティ化を起こさずに、事象の地平線を通過することができるのです。

このため、レオ博士は生きて事象の地平線内に入ることも可能かもしれないと話しています。
その他の注意するべき問題
通常、超大質量ブラックホールはその周囲を非常に高熱を持った円盤によって囲まれています。
これはチリやガス、または吸い寄せられた恒星や惑星の残骸で、降着円盤と呼ばれています。
この高温の乱流は、人が超大質量ブラックホールへ近づくことを阻むことになるでしょう。

このため、安全に近づくなら、周囲に物質もガスも、星さえも、何もない領域にある超大質量ブラックホールを見つける必要があります。
ここまで条件が整ったら、人は生きたまま事象の地平線の中へ調査に行ける可能性があります。
しかし、事象の地平線の中へ一度突入してしまえば、もうその外側へ出ることはできなくなります。
たとえ何らかの重要な発見をしたとしても、その情報を外へ送信することはできないのです。
そのため、事象の地平線へ飛び込んだ誰かは、まだ誰も知らないブラックホールの真実を見つけるのかもかもしれませんが、それが外で暮らす人たちに届くことはありません。
それは宇宙からは永遠に失われてしまいます。
ブラックホールの事象の地平線の内側、それはおそらくどれだけ技術が進歩しても、人類には永遠に見ることのできない秘境なのです。
参考文献
the conversation
提供元・ナゾロジー
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