シェールガス・オイルと呼ばれる地下資源は、ある時期から急激に登場した印象がありますが、これは「水圧破砕法(Hydraulic fracturing)」と呼ばれる、掘削方法が開発されたためです。

この水圧破砕法という掘削には、環境に影響するさまざまな問題が指摘されていて、中でも目を引くのが地震を頻発させる可能性です。

カナダ地質調査所(Geological Survey of Canada)の研究チームの新しい研究は、ガス井の近くで遅く長く続く新しいタイプの地震を観測しており、これは人工的に誘発された新しいタイプの地震であると報告しています。

現在、水圧破砕法と地震の因果関係については、数々の研究が報告されています。

人類はついに、地震が頻発するという環境問題さえ抱えるようになってしまったようです。

目次

  1. 新しい地下資源の採掘
  2. 人間が引き起こ新しいタイプの地震

新しい地下資源の採掘

2006年頃からシェールオイルやシェールガスという単語を、ニュースでよく耳にするようになりました。

シェールは、日本語では頁岩(けつがん)と呼ばれていて、薄片に剥がれやすい性質を持つ泥が固まってできた岩石のことです。

この岩石の層をシェール層と呼び、シェールオイル(ガス)は、このシェール層から回収された地下資源の呼び名です。

「シェール層」からの掘削は、それまで技術的に困難とされていましたが、これを掘削する技術が確立されたことで、一気に世界経済から脚光を浴びるようになり、ニュースでも頻繁に耳にするようになったのです。

このことは「シェール革命」という呼び名で耳にした人も多いでしょう。

その新しい掘削法に含まれる重要な技術の1つが、「水圧破砕法」と呼ばれるものです。

人類による環境破壊に「新タイプの地震」が加わる
(画像=水圧破砕では、1000m以上の水平坑井に大量の水を流し込み岩盤に亀裂を作り出す技術 / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

水圧破砕法では、シェール層まで数千メートル深さの坑井(こうせい:いわゆる井戸)を掘り、そこから今度は横に数千メートルもシェール層を貫く水平坑井を彫ります。

そして、その名の通り、大量の水を流し込むことで、水圧よってシェール層に人工的な亀裂を作り出し、これまでとは異なる場所に閉じ込められているガスやオイルを採掘します。

これは非常に画期的な技術でしたが、同時にさまざまな環境破壊を引き起こす問題のある技術でもありました。

それは水と一緒に浸透される化学物質による汚染から、あまりに大量の水を使うために起きる地域の水不足、騒音問題、そして地下深くに大量の水を圧入することで起きる地震発生の懸念です。

人類による環境破壊に「新タイプの地震」が加わる
(画像=水圧破砕法が地震を引き起こすことを説明する動画 / Credit:How Can Fracking Cause an Earthquake?/World Science Festival、『ナゾロジー』より引用)

人為的な作用で地震が起きる、というのはこれまででは考えられないことでしたが、実際2018年には中国でシェールガスの採掘場近くで、M4.7以上の地震が頻発し、家屋の倒壊や2名の死者が出るという事態が発生しています。

これは水圧破砕によるものと認定され、採掘が中止されています。

シェール採掘が盛んな米国でも、似たような現象は数多く報告されています。

ただ、採掘場から数キロ離れた地域の地震をシェール採掘が引き起こすメカニズムはまだ分かっていないため、業者のほとんどはその責任を否定しています。

しかし、今回の新しい研究は、水圧破砕などの人為的な地層への干渉が、遠隔の地域の地震に関連づく新しい可能性を発見しました。

それは、これまでに見られなかった新しいタイプの地震にあるといいます。

人間が引き起こ新しいタイプの地震

今回の研究は、カナダのブリティッシュ・コロンビア州にある活動中のガス井を取り巻く、8つの地域の地震観測所を使って調査を行いました。

ここでは5カ月間で約350の地震が記録されていました。

しかし、そのうちの約10%が自然発生する典型的な断層破断の地震とは異なっていたのです。

その特殊な地震は、非常にゆっくりとした揺れで、しかも通常は7秒程度で収まる揺れが、10秒以上と長く続いていました。

人類による環境破壊に「新タイプの地震」が加わる
(画像=研究で観測されたブリティッシュコロンビア州のハイブリッド周波数波形地震(EHW)。 / Credit:Hongyu Yu et al.,Nature Communications(2021)、『ナゾロジー』より引用)

この遅い新しいタイプの地震を研究者は「ハイブリッド周波数波形地震(the events hybrid-frequency waveform earthquakes : EHW)」と呼んでいます。

そして、この地震が採掘場から離れた地域に大規模な地震を誘発されるプロセスの1つである可能性を指摘しています。

このゆっくりとした地震は、水圧破砕によって地中に大量の水が浸透することで、地震エネルギーを放出しないゆっくりとしたすべりが地中に生み出されることで始まります。

このゆっくりとしたすべりは、近くの断層に応力変化を引き起こし、それが蓄積されて大きな地震を引き起こす可能性があるのです。

これは水圧破砕などの、地下への人間の干渉が、大きな地震の誘発に繋がる可能性を示す、最初の証拠だといいます。

シェール採掘自体は、現在採算性の問題から下火になりつつあります。

とはいえ、現在も採掘の続いている地域は多く存在し、それは数千キロ離れた遠い地域の大地震に誘発されて、中規模の地震を起こしやすくなる可能性があるといいます。

また、現在温暖化問題に対して、排出された大量の二酸化炭素を回収して、地中へ貯蔵するという方法も検討されています。

こうした方法も、地中に大量の物質を圧入することになり、これが今後地震の頻発原因になる可能性もあります。

さまざまな問題は、あちらを立てるとこちらが立たずというトレードオフの関係にあります。

二酸化炭素を地中に封印するという方法も、もしかしたら人為的な地震という新たな人類の問題を引き起こしてしまうかもしれません。

こうした今後登場する新しい技術への理解を深めるためにも、今回の研究は重要な意味を持つと研究者は語っています。

人為的な地震被害。それも新たな環境問題になっているのかもしれません。


参考文献

Researchers Find Evidence That Fracking Can Trigger an All-New Type of Earthquake

New type of earthquake discovered

元論文

Fluid-injection-induced earthquakes characterized by hybrid-frequency waveforms manifest the transition from aseismic to seismic slip


提供元・ナゾロジー

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