「アホロートル」という生物をご存知でしょうか?

アホロートル (Axolotl)とは、アステカ文明で使われたナワトル語の「水」と「犬」を組み合わせたもの。

メキシコ原産の両生類の仲間で、一般には、メキシコサンショウウオ(学名:Ambystoma mexicanum)の名で通っています。

メキシコサンショウウオ、つまり、ウーパールーパーのことです。

ここでは「アホロートル」と呼ぶことにしますが、彼らには稀に、水生から陸生に変態する現象が起きます。

アホロートルは元々、水中で一生を過ごす生物だったのですが、ある出来事がきっかけで「変態」の能力を獲得してしまったのです。

そこで今回は、ペットとしても人気なアホロートルについて、変態を手に入れるに至った裏話も含め、紹介していきます。

目次

  1. 死ぬまで「幼い姿」のまま
  2. なぜ「変態能力」を手に入れてしまったのか

死ぬまで「幼い姿」のまま

ウーパールーパーが陸生への「変態能力」を手に入れてしまった裏話
(画像=アホロートル(メキシコサンショウウオ) / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

野生のアホロートルは、メキシコの首都メキシコシティ内にあるソチミルコ湖と、その周辺にしか分布していません。

絶滅危惧種にも指定されており、種の保護管理が厳しく進められています。

首の左右に大きな外エラが3本ずつ生えているのが最大の特徴です。

寿命がかなり長く、平均して10年、長ければ15年、最長で25年生きられます。

産卵によって繁殖し、11月から翌年の1月の間に、一度で200〜1000個の卵を水草に産みつけます。

野生個体では、体色が黒や茶褐色、紫色のものがほとんどです。

ただ、ペットとして人気なのは、体が真っ白で、目の玉が黒い個体で、ウーパールーパーといえば、普通こちらを想像しますね。

これはリューシスティック(白変種)と呼ばれ、色素の減少により体が白色化した個体です。

(ちなみに、アルビノとは全く別物で、リューシスティックは色素の生産能力は製造であるのに対し、アルビノは遺伝的欠陥でメラニンが元から生成できません)

ウーパールーパーが陸生への「変態能力」を手に入れてしまった裏話
(画像=リューシスティック個体、ウーパールーパーと言われて想像するのはこっち / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

成熟すると全長10センチから大きくて25センチになりますが、一方で、アホロートルは幼形成熟(ネオテニー)であり、原則として、大人になっても幼いままの姿を保ち続けます。

それでも性成熟はしているので、繁殖は可能です。彼らは変態しないので、死ぬまで水中から出ることはありません。

ところが、あることがきっかけで、一部のアホロートルは、変態の能力を手に入れてしまったのです。

それを次に見ていきましょう。

なぜ「変態能力」を手に入れてしまったのか

野生下のアホロートルは絶滅の危機に瀕しており、わずかに存在するのはメキシコシティの湖辺のみですが、その一方で、世界中には研究やペット用の個体がたくさん広がっています。

これは、飼育できるアホロートルを野生とは別に作ったことで可能となりました。

そして、マサチューセッツ大学ボストン校(UMB・米)の両生類学者であるキャサリン・マカスカー(Catherine McCusker)博士いわく、飼育用のすべてのアホロートルは、わずか6匹の個体によって確立されたというのです。

たった6匹から生まれたため、飼育用のアホロートルは、遺伝的多様性に非常に乏しくなってしまいました。

こうした生物は病原体に対しとても弱く、また、遺伝子の近いもの同士の交配は、合併症の発生率をぐんと高めます。

アホロートルもこの問題から逃れられませんでした。

そこで専門家らは、遺伝子の多様性を高め、より健康で強いアホロートルにするため、近縁種のタイガーサラマンダー(学名:Ambystoma tigrinum)を交配させたのです。

ウーパールーパーが陸生への「変態能力」を手に入れてしまった裏話
(画像=タイガーサラマンダー / Credit: The National Wildlife Federation、『ナゾロジー』より 引用)

アホロートルは、幼形成熟(ネオテニー)であり、一生を幼い姿のまま水中で過ごします。

ところが、タイガーサラマンダーは、最初は水生であるものの、成長するに従って、空気を吸う陸生へと変態する種。

この遺伝子を加えた結果、飼育用のアホロートルに、水生から陸生へと変態する能力があらわれ始めたのです。

しかし、この変態能力は、飼育用のすべてのアホロートルにあらわれるわけではないとのこと。

それでも、突然の変態に驚いたという飼い主も少なくないようです。

コートニー・ベイリー(Courtney Bailey )さんもその一人。

コートニーさんはある日、ペットのアホロートル「ゴラム(Gollum)」が、病気にかかっているように見えたそう。

仲間のいる水槽から隔離して様子を見たところ、1週間で以下のような変身を遂げてしまったのです。

Before

ウーパールーパーが陸生への「変態能力」を手に入れてしまった裏話
(画像=変態前のゴラム / Credit: Courtney Bailey(iflscience) – Axolotls Can Spontaneously Turn From Aquatic Animals To Air-Breathing Land Creatures(2021)、『ナゾロジー』より 引用)

After

ウーパールーパーが陸生への「変態能力」を手に入れてしまった裏話
(画像=変態後のゴラム / Credit: Courtney Bailey(iflscience) – Axolotls Can Spontaneously Turn From Aquatic Animals To Air-Breathing Land Creatures(2021)、『ナゾロジー』より 引用)

「ゴラムのエラはなくなり、体色も変わって、まったく水を欲しがらなくなりました。本当に信じられませんでした」とコートニーさんは話します。

マカスカー博士は、アホロートルの変態について、こう述べています。

「最初の明らかな変化は、エラが退化し始めることです。

これが完了すると、水中で呼吸することができなくなるので、這い回るための “陸地 “を与えなければなりません。

また、陸地という新世界に適応するため、皮膚にも多くの変化が起こります。尻尾のヒレやフィンのような皮膚がなくなってしまうのです」

変態を受け入れる飼い主の一方で、「純白の愛らしい姿をとどめたい!」という方も多いでしょう。

実際、アホロートルの変態が起きやすくなる環境条件があります。

たとえば、水質の悪さや水温の高さ、水位の低さ、それから水中のヨウ素が多いと、変態に必要な甲状腺ホルモンの分泌を促進してしまうという。

もし変態を避けたいのであれば、綺麗な水と温度、ゆったりできる広めの水槽を用意すると良いでしょう。

しかし、変態を見られるのも貴重なことです。

そのまま変身するに任せてみるのもいいかもしれません。


参考文献
Aquatic Axolotls Can Spontaneously Turn Into Air-Breathing Axolotl Morphs


提供元・ナゾロジー

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