ガムでウイルスの出入りがブロックできるようです。

米国ペンシルベニア大学で行われた研究によれば、新型コロナウイルスの表面分子に吸着して感染を防護する、植物由来のガム(ACE2ガム)を開発した、とのこと。

新型コロナウイルスの感染は、ウイルスの外側にあるスパイクと呼ばれる部分が人間の細胞の表面にあるタンパク質(ACE2)に結合することではじまります。

しかし新たに開発されたガムはウイルスが結合するタンパク質(ACE2)を大量に含んでおり、ウイルスは人間の細胞に結合する前にガムにくっついてしまうようです。

なお開発されたガムには味もちゃんと付いており、シナモン風味とのこと。

研究結果の詳細は『Molecular Therapy』にて公開されています。

目次

  1. コロナを予防するシナモン味のガムが開発!
  2. 実は普通のガムでも少し効果があった

コロナを予防するシナモン味のガムが開発!

コロナのスパイクを吸着する「感染予防できるガム」を開発!
(画像=コロナを予防するシナモン味のガムが開発! / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

新たなオミクロン株の登場によって、新型コロナウイルスとの闘いは、もう何度目かもわからない延長戦がはじまろうとしています。

オミクロン株について正確な情報は確定していませんが、発生源の南アフリカではウイルス同士の競争によりデルタ株が駆逐され、オミクロン株へと急速に置き換えが進んでいるとのことから、高い感染力が懸念されています。

一方、人類のほうでもマスクやワクチンに次いで、新たな感染防護法が開発されました。

新型コロナウイルスは外側にあるスパイクと呼ばれる部分を、人間の細胞の表面にある、血圧制御にかかわるタンパク質(ACE2)に結合することで感染を起こします。

そこで今回、ペンシルベニア大学の研究者たちは、ウイルスの結合先となるタンパク質(ACE2)を大量に含んだ「シナモン味」のガムを開発しました。

このタンパク質(ACE2)が山盛りされたガムを噛んでいると、ウイルスが口の中に入った場合でも、ウイルスが人間のタンパク質(ACE2)に結合するより先に、ガムに含まれるタンパク質(ACE2)にくっつくようになると考えたからです。

「ACE2ガム」の効果をテストするにあたっては、新型コロナウイルスのスパイクを持つ危険性の低いウイルス(偽コロナ)が遺伝子操作によって作られ、細かく砕いた「ACE2ガム」の粒子と混ぜられました。

結果、「ACE2ガム」は最大で95%のウイルス(偽コロナ)粒子を除去する能力があり、細胞への感染を防ぐ効果があることも判明します。

また感染者から採取された本物の新型コロナウイルスを含む唾液サンプルに「ACE2ガム」粒子を混ぜて攪拌したところ、ほとんどのウイルスがガムに吸着して、残った液中ではウイルスRNAがほとんど確認できないレベルまで下がっていました。

これらの結果は「ACE2ガム」が新型コロナウイルスに対して高い吸着性を持ち、口腔内部への感染を防ぐ能力がある可能性を示します。

またウイルスの感染者がこのガムを噛むことで、原理的には、ウイルスの拡散を防ぐことも可能になるでしょう。

ウイルスの多くは唾液などの飛沫に紛れ込んで空気中を移動しますが、感染者がACE2を山盛りしたガムを噛んでいる場合、ウイルスは飛沫にまぎれて出ていく前に、ガムにくっついて放出をブロックできる可能性があるからです。

なお研究では比較のために普通のガムも用いられましたが、興味深いことに普通のガムにもウイルスを除去する能力があったことが判明します。

実は普通のガムでも少し効果があった

コロナのスパイクを吸着する「感染予防できるガム」を開発!
(画像=機械的な咀嚼実験ではACE2の分子構造に影響はありませんでした / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究で新型コロナウイルスをガムで防ぐ方法が開発されました。

ガムに含まれるACE2は人間の遺伝子(ACE2の設計図)を組み込んだ植物を栽培し、凍結乾燥させることで抽出されるため、製造も安価で済むとのこと。

植物で作られたタンパク質をガムに組み込み経口で使用するというアイディアは、上手くいけば、他のさまざまなウイルス(インフルエンザなど)に対しても利用可能になるでしょう。

また追加の実験では機械を使った咀嚼(そしゃく)試験が行われましたが、咀嚼がガムに含まれるACE2の分子構造に影響が与えないことが確認されました。

なお興味深いことに、比較のために使用されたACE2を含まない普通のガムでも、新型コロナウイルスを一定量除去する効果があることが確認されました。

ガムには口の内部を清掃する機能があるため、普通のガムでもウイルス粒子を巻き込むことで除去につながったのだと考えられます。

(※もちろんACE2ガムのほうがウイルス除去効果がありました)

研究者たちは今後、人間による臨床試験を目指して、開発を続けていくとのこと。

成功すれば、マスクを突破してきたウイルスに対しても、もう一段の防御が可能になるでしょう。

もしかしたら未来の薬局には、コロナ用ガムやインフルエンザ用ガムなどが、のど飴の横に並んでいるかもしれません。

参考文献
Chewing Gum Developed That Could Reduce COVID Transmission – Laced With Protein That “Traps” the SARS-CoV-2 Virus

元論文
Debulking SARS-CoV-2 in saliva using angiotensin converting enzyme 2 in chewing gum to decrease oral virus transmission and infection

提供元・ナゾロジー

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