はるか昔、初期の地球は巨大な溶岩の塊でした。

この惑星を覆うマグマの海がやがて冷えながら、窒素や水素、炭素、酸素などのガスを放出することで、地球に初期の大気が生まれました。

しかし、一番最初の地球の大気がどのようなものだったのかは、これまであまりよくわかっていませんでした。

科学雑誌『ScienceAdvances』で発表された新しい研究は、地球初期の大気組成を調査することに成功し、今日の金星と類似していたと報告しています。

これは、生命誕生に関する理論の予想に対抗する結果で、科学者たちを困惑させています。

目次

  1. 古代の大気を知る方法
  2. 大気組成を記録する溶岩の実験
  3. 生命の誕生に不向きだった地球初期の大気

古代の大気を知る方法

地球の「原始大気」が最古の岩から明らかに、生命がうまれにくい環境だった?!
(画像=初期の地球はマグマの海で、それが個体化していった。そこには初期大気の組成も記録された。 / Credit:IPGP、『ナゾロジー』より 引用)

最初に地球で形成された大気は、どのような組成をしていたのでしょうか?

古代の地球の大気を測定する、というのは雲をつかむような話で、これまで人類はその方法を持っていませんでした。

しかし、手がかりがあります。それは非常に古い初期地球のマグマから作られた岩です。

スイスの連邦研究能力センター(NCCR)の上級研究員パオロ・ソッシ(Paolo Sossi)氏は、次のように説明しています。

「45億年前、現在は地球の地殻の下にある溶けた岩(マグマ)は、常に上層の大気とガスを交換し互いに影響しあっていました。ですから、一方を調べることで他方について学ぶことができるのです」

マグマが冷えて岩に変わると、当時の大気の記録がそこに閉じ込められます。

研究チームは、もっとも古い溶岩のサンプルを入手していました。

つまり、これを調べれば地球初期の大気組成を知ることができるのです。

しかし、問題がありました。

それは、どのような大気組成だと、冷えた溶岩にどんな痕跡を残すのか? という知識が研究者たちにはまだなかったのです。

大気組成を記録する溶岩の実験

この問題を解決させるためには、実際に溶岩を作り出し、さまざまな組成のガスの中でそれを冷やしたとき、岩にどんな痕跡が残るのかを調査するしかありません。

そこで研究チームは地球初期のマントル(カンラン岩)の構成要素を組み立てて、初期地球のミニチュアバージョンを作りました。

ただ、この再現されたマントルを溶かすためには、2000℃近い高温が必要で、これまでこの高熱を実現する方法がありませんでした。

要は、地球初期の大気組成を調べる方法は考案されていたものの、実現できていなかったのです。

しかし、最新のレーザー炉技術の開発がこの実験を可能にしました。

地球の「原始大気」が最古の岩から明らかに、生命がうまれにくい環境だった?!
(画像=実験で使用されたレーザー装置 / Credit:IPGP.、『ナゾロジー』より 引用)

次に地球初期の大気に存在した可能性のあるさまざまな化学組成のガスを作り出しました。

そして、そのガスの中でマントルが冷えて固まったときどんな痕跡が残るのか、実験を繰り返して確認したのです。

こうしてチームは古い溶岩のサンプルと一致する大気組成を、実験から探し出しました。

その結果、数十億年前の地球上に存在していたと考えられる大気は、現在の金星や火星と組成が類似しているとわかったのです。

生命の誕生に不向きだった地球初期の大気

地球の「原始大気」が最古の岩から明らかに、生命がうまれにくい環境だった?!
(画像=初期の地球の大気は、現在の金星の組成に似ていた / Credit:NASA / JPL-Caltech、『ナゾロジー』より 引用)

マグマは鉄分が豊富で、岩石中の鉄の酸化状態(錆の化学組成)から、当時利用できた酸素量を知ることができます。

実験では、こうした鉄分と酸素の結合比率に着目して、大気組成の分析を行いました。

鉄と酸素の結合比率が2:3に近い場合、大気中には酸素が豊富で、また窒素や二酸化炭素が多く含まれていたとわかります。

もしこの鉄と酸素の比率が1:1に近い場合、大気中に酸素は少なく、大気組成はメタンやアンモニアが多く含まれていたことになります。

過去の研究では、生命起源の一般的な理論から、初期の地球には水とメタン、アンモニアが豊富だったと予想されていました。

このような環境だと、生命のもととなるアミノ酸が形成されやすいのです。

しかし、今回の結果は、この理論に対抗するものとなりました。

新しい研究から示された結果は、地球初期の大気が、現在の金星や火星に近い、二酸化炭素や窒素に富んでいたことを示していて、アミノ酸の形成には不向きな状態だったのです。

これは生命起源について謎を生みましたが、代わりに地球が金星や火星などの隣人と異なる理由を説明してくれます。

地球では、マグマから発生した大気が豊富な液体の水を形成し、海が生まれました。これが大量の二酸化炭素を吸収してくれました。

地球は太陽との適切な距離によって、海が干上がることはなかったため、液体の状態で保持することができ二酸化炭素の低下を実現できたのです。

しかし金星は暑すぎ、火星は寒すぎたため、このプロセスを維持することができませんでした。

研究は新しい謎を残しましたが、初期の地球の大気状態、そして隣り合う惑星と地球の大気が分岐していった理由を明らかにしてくれています。

研究者は今後、この研究手法をアップデートさせていき、別の太陽系の大気についても研究していきたいと語っています。


参考文献
Unlocking the secrets of Earth’s early atmosphere(Argonne National Laboratory)

元論文
Redox state of Earth’s magma ocean and its Venus-like early atmosphere


提供元・ナゾロジー

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