生きているマウスをラジコン化することに成功しました。
1月28日に『Nature Materials』に掲載された論文によると、マウスの脳に埋め込んだナノサイズの磁石を磁力で動かし神経を刺激しすことで、移動方向の制御に成功したとのこと。
「生きているラジコン」のようなマウスはどのような仕組みで操作されているのでしょうか?
磁力でマウスを遠隔操作する
近年の急速なロボット工学の進歩により、さまざまな4足歩行の小型ロボットが作られています。
しかしどんなに最先端のロボットであっても、生きているマウスのような柔軟な動きはできません。
一方で、発展を続ける脳科学の分野では神経回路に干渉することで、人間やサル、マウスなどの体や精神を制御することが可能になっています。
そのため完璧な脳制御ができれば理論上、柔軟な生物の体をラジコンのように運用することもできるでしょう。
ただ既存の制御方法は、脳に電極や光ファイバーを直接差し込む必要があり、生体にとって負担が大きいものでした。
そこで今回、研究者たちは新たな制御方法として、磁石を使うことにしました。
注射によりマウスの運動野に、磁力に反応して回転するナノサイズの磁石(直径0.0005mm)が無数にちりばめられます。
同時に、圧力に反応して脳細胞を刺激する仕組みを、無害なウイルスを使ってマウスの脳細胞に導入しました。
こうすることで、磁力に反応して回転する磁石と、回転の圧力を感知して脳細胞を刺激する仕組みがマウスの脳内に「後天的に」構築されました。
仕組みができれば、次はいよいよ実際に磁力をかける制御実験です。
マウスはどうなってしまうのでしょうか?
物理的な刺激を神経刺激に変換する
実験で磁力をかけると、上の図のように、右脳の運動野に操作を受けたマウスは左足の運動神経が活性化し左方向に動き、逆に左脳を操作したマウスは右方向に動きました。
この結果は、生きている動物の運動機能を磁力によって制御可能であることを示します。
またナノサイズの磁石は赤血球にも含まれている酸化鉄から作られているため、目立った毒性は生じなかったとのこと。
研究者たちはこの制御技術を、人間にも導入できると考えています。
また磁力を通した物理的な刺激で脳内の個々のニューロンを操作できるようにする技術は、医療面での応用もできるとのこと。
急速に発展する脳の制御技術には、今後も注目していきたいところです。
元論文
Non-contact long-range magnetic stimulation of mechanosensitive ion channels in freely moving animals
提供元・ナゾロジー
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