地球上には生命が溢れていますが、この生命の最初の起源はどこなのでしょう?

これ関する1つの説が、地球生命は地球で発生したものではなく宇宙から来たというパンスペルミア仮説です。

しかし、生物は宇宙空間を遠くまで移動することが可能なのでしょうか?

この問題について日本の研究グループが、国際宇宙ステーションで3年間宇宙空間に曝露した微生物が生存したという結果を報告しました。

3年という期間は、火星から地球へ生物が自然に移動したと仮定した場合に考えられる最短時間です。

もしかしたら最初の生命は火星で発生していた可能性が出てきたのです。

目次

  1. 最初の生命は地球外で生まれた。「パンスペルミア説」とは?
  2. 微生物は宇宙で生きられるのか? JAXAの「たんぽぽ計画」
  3. 生命の起源はどこなのか? 今後の研究

最初の生命は地球外で生まれた。「パンスペルミア説」とは?

宇宙に3年もさらした微生物の生存を確認!生命は宇宙から来たとする「パンスペルミア説」の証拠となるか
(画像=Credit:Illustration courtesy Lynette Cook, FUSE/NASA、『ナゾロジー』より引用)

生命の起源には謎が多く、地球で生命が誕生していたかどうかも怪しい部分があります。

地球の生命は、ひょっとしたら宇宙の別の場所で初めて発生し、宇宙を旅して地球へやってきた可能性もあるのです。これをパンスペルミア仮説といいます。

最初の生命は実験的証拠からRNA生物だと考えられています。クマムシのような過酷な環境でも生存可能と言われる生き物がいますが、最初の微生物は本当に宇宙を旅することができたのでしょうか?

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欧州とロシアの研究グループはISSでこの可能性を検証し、微生物の胞子は紫外線を遮断すれば長期間宇宙空間で生存できるということを示しました。

ここから「リソパンスペルミア説(リソは岩石の意)」という、最初の生命は他惑星由来の隕石や彗星に付着して地球にやってきたという仮説が提唱されました。

微生物は宇宙で生きられるのか? JAXAの「たんぽぽ計画」

宇宙に3年もさらした微生物の生存を確認!生命は宇宙から来たとする「パンスペルミア説」の証拠となるか
(画像=ISSに結合された日本実験棟「きぼう」。/Credit: JAXA、『ナゾロジー』より引用)

そこで、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」でJAXAと東京薬科大学及び26の研究機関が参加して実施されたのが、「たんぽぽ計画」と呼ばれる有機物や微生物の宇宙空間での生存可能性を探る研究です。

これもパンスペルミア仮説を探る研究で、たんぽぽの綿毛のように宇宙に散った生命の種が地球に落ちて発芽したというイメージから「たんぽぽ計画」と名付けられています。

宇宙に3年もさらした微生物の生存を確認!生命は宇宙から来たとする「パンスペルミア説」の証拠となるか
(画像=たんぽぽ計画の印章と概要。/Credit:JAXA,細胞機能学研究室、『ナゾロジー』より引用)

「たんぽぽ計画」の一環で実施された実験の1つが、今回報告されている微生物を宇宙空間の紫外線照射下に長期間曝露するというものでした。

この実験では、放射線耐性微生物「Deinococcus radioduransデイノコッカス・ラジオデュランス」を宇宙空間に3年間曝露しました。

その結果、デイノコッカスの菌体の塊は紫外線を浴び続けた状態でも、数年生存可能である事が明らかになったのです。

火星-地球間の自然に発生する移動は、平均すると数千万年かかりますが、最短の軌道で移動した場合にかかる時間は3年程度と考えられています。

この成果は、微生物が紫外線に晒されたとしても惑星間を移動可能だったことを示唆しています。少なくとも地球上の生命は、最初火星で誕生しその後地球へ渡ってきた可能性が出てきたのです。

研究チームはこれを「マサパンスペルミア(マサは塊の意味)」と呼んでいます。

生命の起源はどこなのか? 今後の研究

今回の実験は地上400kmという、地球を周回する低軌道上で実施されたものです。

この軌道は、ヴァン・アレン帯の内側にあり、地球磁場の影響で放射線からはある程度防御されています。

宇宙に3年もさらした微生物の生存を確認!生命は宇宙から来たとする「パンスペルミア説」の証拠となるか
(画像=ヴァン・アレン帯の模式図。/Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

今後、研究チームはヴァン・アレン帯の外側でも同じような微生物暴露実験を行い、より精密な検証結果を得たいと考えています。

生命の誕生には謎が多く、現在も科学者によって大きな見解の相違があります。

生命は宇宙でただ一回だけ誕生した非常にまれな現象だという考えも、生命は適当な環境さえ整えば簡単に誕生できるという考えもあります。

もし宇宙空間を微生物のような原始的な生命が移動できるならば、生命の存在確率は非常に高まることになるでしょう。

今後火星を含めた太陽系天体で、生命探査も大きく発展していくことが予想されます。

そのとき、もし生命を発見することができ、それが地球と同様に20種のアミノ酸を使ったタンパク質を持っているのなら、そこから地球の生命の起源を辿ることができるようになるかもしれません。


参考文献

QST

この研究は東京薬科大学・国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構の山岸明彦名誉教授等の共同研究グループより発表され、論文は微生物学に関する科学雑誌『Frontiers in Microbiology』に8月26日付けで掲載されています。 DNA Damage and Survival Time Course of Deinococcal Cell Pellets During 3 Years of Exposure to Outer Space


提供元・ナゾロジー

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