神戸大学を中心とした研究グループはこのほど、MRIを用いた調査により、マリモが樹木とよく似た年輪を持つことを明らかにしました。
また、年輪の幅から、個々のマリモの年齢推定にも成功したとのこと。
本研究の成果は、温暖化や環境破壊に直面しているマリモの保護・管理に役立つと期待されています。
研究は、11月10日付けで学術誌『Scientific Reports』に掲載されました。
丸いマリモがいるのは「世界で2ヵ所」だけ!
マリモ(学名:Aegagropila linnaei)は、淡水生の緑藻の一種であり、北半球に広く分布します。
一方で、よく知られている丸いマリモは、北海道の阿寒湖とアイスランドのミーヴァトン湖の2ヵ所にしか存在しません。
残りは、水中を浮遊したり、岩壁に固着する糸状のものがほとんど。
直径が10センチ以上に達する大型マリモが見られるのも、阿寒湖とミーヴァトン湖のみです。
ところが、ミーヴァトン湖では2013年に、湖の富栄養化が原因で多くのマリモが消失してしまいました。
富栄養化とは、ある水域の栄養状態が豊富になることで、一見して良い現象にも思えます。
しかし、池や湖、港湾内といった停滞水域では、光合成がストップする夜間に、生物の呼吸による酸素消費が急増するため、水中が酸欠状態となってしまうのです。
阿寒湖も、20世紀前半からつづく森林伐採や土地開発、周辺の観光地化にともない環境が変化して、土砂流入や湖水面低下、富栄養化が起こるようになりました。
そのせいで、かつては4ヵ所あったマリモの群生地は、2ヵ所にまで減っています。
阿寒湖のマリモは、長さ3センチほどの糸状の藻が集まり、回転しながら表面で光合成を行うことで、大きな球体に成長していきます。
しかし、成長速度や栄養供給のメカニズムなど、物理的要因にもとづいたマリモの形成プロセスはよく分かっていませんでした。
そこで研究チームは、マリモ内部の構造や機能を明らかにするべく、調査を開始しました。
マリモ内部をMRIで走査
マリモの内部を正確に知るには、切断したりしない非侵襲的な手法が必要です。
そこで本研究では、人体の内部を検査するために使われる「MRI(核磁気共鳴画像法)」を採用しました。
マリモの内部は、光合成ができないため、空洞になることが知られています。
今回のMRI検査でも、表層から4〜5センチより内側で空洞化していることが確認できました。
そして、表層から4〜5センチまでの間に、切り株に見られるような年輪が発見されたのです。
湖の解氷期は風や波によって、マリモが湖底で回転して表面が磨かれ、結氷期はほぼ動かなくなって表面がボサボサになり、層の違いが生じます。
このことから、マリモの年輪は、樹木と同じように「年成長の記録」と断定できます。
それぞれの年輪の幅は4.5〜6.3ミリであり、直径換算すると、1年間で9〜12.6ミリほど成長することが分かりました。
つまり、球体になり始める直径5センチから、30センチの巨大マリモになるまでに、20〜28年ほどかかると算出されます。
栄養循環のメカニズムも解明
これまでの研究で、阿寒湖の群生地に流れ込む河川の栄養レベルは高くないことが分かっています。
加えて、多くの栄養を取り込む水草が周囲に繁茂しているため、マリモがどのように栄養を吸収しているか謎でした。
しかし、その答えの一つは、マリモのMRI画像の中心部にある「白い塊」(上図参照)にあったようです。
この白い塊は、マリモ内部で剥離した糸状藻の小さな集まりであり、マリモ内部の水中酸素濃度が低いときに分解され、栄養分を溶出します。
本研究では、この栄養素が外部へ溶け出していくことで、表層に広がることを特定しました(下図)。
その栄養を使って、光合成をし成長しているようです。
研究チームは、これについて、「地上最小スケールの栄養循環である」と指摘しています。
専門家たちは今、深刻化する温暖化によって、微妙なバランスを保っているマリモの球形や栄養循環が失われることを懸念しています。
研究チームは今後、物理的要因から見たマリモの成長プロセスをより詳しく究明し、マリモの保護・管理に役立てていく予定です。
参考文献
マリモにも年輪がある!〜地上最小スケールの栄養循環〜(神戸大学)
元論文
The structure and formation of giant Marimo (Aegagropila linnaei) in Lake Akan, Japan
提供元・ナゾロジー
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