これまでバイリンガルの人々は、「マルチタスク能力」「記憶力」「数学力」など、様々な面で優れていると言われてきました。

しかし3月1日に”Psychological Bulletin” で公開された論文によると、「バイリンガルだからといって認知能力が高いわけではない」ようです。

Is bilingualism associated with enhanced executive functioning in adults? A meta-analytic review.

フィンランドの研究者チームは、数多くの研究を分析することにより、バイリンガルであることはコミュニケーションには役立つものの認知能力の向上とは関係がないことを発見しました。

ここでの認知能力とは、中でも「実行機能」と呼ばれるもの。「実行機能」とは、複雑な課題に直面した際に思考や行動を制御するシステムのことを指します。

オーボ・アカデミー大学心理学部のミーナ・レートネン博士とその研究チームは語ります。

「バイリンガルであることと認知能力の向上の関係は、近年さかんに研究が行われてきた分野であり、科学界だけでなく国際的なメディアからも大きな注目を浴びています。2つの言語を使い分けることで、認知能力が鍛えられるといったことは長く事実とされてきました。しかし、現存する多くの研究を調べた私たちの結論は、その事実とは異なるものでした」

新事実。「バイリンガル=認知能力が高い」は間違いだった
(画像=Credit: Pixabay、『ナゾロジー』より 引用)

レートネン博士の研究チームは専門誌 “Psychological Bulletin” に掲載された研究で、27カ国、152もの関連研究を調べ、バイリンガルと母国語しか話すことができない人の認知能力の違いをまとめました。また、そこでは「どういった要因が認知能力を向上させるのか」といったテーマのもと、「2つ目の言語を習得した時期」「被験者の年齢」「言語の組み合わせ」など多くの要因が調査の対象となりました。

その結果、当初は認知能力の中のいくつかの項目で、バイリンガルが少しだけ優れているといった結果が出たものの、これは「出版バイアス “publication bias” 」を考慮に入れていないものだったのです。

「出版バイアス “publication bias”」 とは、否定的な結果が出た研究は、肯定的な結果が出た研究に比べて公表されにくいといった現象のこと。そして、公表されていない研究まで調査対象にした結果、バイリンガルの認知能力が特に優れているといった結果は出ませんでした。

これによりレートネン博士は、「バイリンガルであることは、コミュニケーションや文化の理解を助けるものであるが、認知能力の向上とは関係がないことを研究結果が示しています」と結論づけています。

子どもをバイリンガルにしようと試みる親も多いですが、まずは第一言語を大事にしたほうが良いかもしれません。

提供元・ナゾロジー

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