私たち人間にとって鼻詰まりは非常に不快な悩みの1つです。
そんな鼻詰まりの中でも最悪なのが、鼻の穴を左右に隔てている壁「鼻中隔(びちゅうかく)」が強く曲がっているせいでおきる「鼻中隔湾曲症」という症状です。
アメリカ・ニューヨーク工科大学オステオパシー医学部(NYIT-COM)に所属するジェイソン・バーク氏ら研究チームは、ある種のワニも同様の鼻トラブルに悩まされていることを発見しました。
絶滅危惧種のワニ「インドガビアル(学名:Gavialis gangeticus)」は、その長い鼻の鼻中隔が歪んでいるため、鼻呼吸に苦労していたのです。
研究の詳細は、11月23日付の科学誌『Anatomical Record』に掲載されました。
鼻の長いワニと鼻中隔湾曲症
インドガビアルは、地球上で最も希少なワニの一種であり、大きな目と細長い顎が特徴です。
このワニの鼻は長い顎と一緒に前方に大きく突き出ているため、必然的に鼻の穴も細長くなっています。
このため、一見私たち人間とは何の類似点もないように思えるワニが、人間に起きるある鼻のトラブルを起こしたとき、重大な問題となるのです。
それが「鼻中隔湾曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)」という症状です。
これは鼻中隔が強く曲がっているせいで鼻呼吸しづらくなる、という症状です。
とはいえ、どんな人でもある程度は鼻中隔が曲がっているものです。
実際、アメリカの学術医療センター「クリーブランド・クリニック」によると、「最大で80%の人が鼻中隔湾曲症を患っている」とのこと。
しかし中には、鼻中隔が非常に強く湾曲しているケースもあり、症状を改善するには手術が必要になります。
私たちが慢性的な鼻づまりに悩まされる場合、もしかしたら原因は鼻中隔の歪みにあるかもしれません。
では、ワニが同様の悩みを抱えていると、どうして分かったのでしょうか?
インドガビアルはずっと鼻づまりに悩まされていた
研究チームは、フォートワース動物園で飼育されているインドガビアルの頭部を医療用の機器で分析したときに、彼らが人間と同じ鼻トラブルを抱えていることを偶然発見しました。
インドガビアルの鼻中隔も湾曲していたのです。
しかもインドガビアルの鼻の穴は細長いため、鼻中隔の歪みが生じる範囲は広く、より複雑になっていました。
そしてチームは、インドガビアルたちの鼻中隔湾曲症が呼吸にどんな影響を与えるか調査することにしました。
そのためにアメリカの動物園で飼育されている他のインドガビアルのサンプルを収集。
分析の結果、人間と同じように鼻中隔湾曲症の程度には個体差があると判明しました。
そしてサンプルの中でも最も鼻中隔の湾曲が強かったのは、「ルイーズ」という愛称の個体だったようです。
チームは、「ルイーズはかなり呼吸しづらい状態にあり、毎回強い力で鼻呼吸していた」と推測しています。
また、そのような強い鼻呼吸と湾曲による歪みによって鼻の内側が強くひっぱられ、鼻血も出やすかったと考えられます。
このような慢性的な鼻詰まりを、強い呼吸によって解消しようとした場合、鼻の内部を傷つけて深刻な健康問題に発展する恐れがあります。
しかし、ルイーズは特に問題もなく50歳まで生きることができました。
その理由をチームは次のように説明しています。
「これはワニの回復力のおかげです。
人間が同レベルの症状を抱えると手術が必要になりますが、ワニはその回復力で生き続けることが可能なのです」
さて、現代生息している他のワニ種は、鼻の穴が広かったり、鼻中隔が非常に分厚かったりするため、インドガビアルのようなトラブルは抱えていません。
しかし、過去にはパラサウロロフスのように鼻と口が前に突き出た恐竜や、チャンプソサウルスのようにワニに似た爬虫類が存在していました。
もしかしたら彼らも、私たちと同じ鼻づまりに悩まされていたかもしれませんね。
参考文献
Research finds nasal problem plagued long-nosed crocodile relatives
Study: Nasal Problem Plagued Long-Nosed Crocodile Relatives
元論文
Septal deviation in the nose of the longest faced crocodylian: A description of nasal anatomy and airflow in the Indian gharial (Gavialis gangeticus) with comments on acoustics
提供元・ナゾロジー
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