新しい需要予測のためにデマンドプランナーの育成を

さらに、レンジフォーキャストができていたとしても、想定外の需要変動が発生することもあります。そのため、常に市場の変化をモニタリングし、需要予測を更新しつづけることも重要になります。私はこれをアジャイルフォーキャスティングと呼んでいます。

しかし、扱うSKU数が数千以上あるような企業では、日々のPOSデータやSNSでのコメントなどを人がモニタリングしつづけることは現実的ではありませんので、ITによる支援が必要になりますし、さらなる分析のためにはAIを使うことも検討すべきでしょう。また、AIを導入してもすぐに価値を生めるとは限らないため、AIの学習データのマネジメントや予測結果の解釈、さらには学習のフィードバックループを需要予測の専門家であるデマンドプランナーが主導しなければなりませんiv 。

 大きな環境変化があった際の需要予測は、その場しのぎの緊急対応ではうまくいかない場合が多いでしょう。そのため平時からアジャイルに需要予測を更新できるオペレーションも整備しておくことが有効です。これらは簡単ではなく、専門的な知見やスキルが必要になるため、企業としてデマンドプランナーを育成することを検討すべきだと考えています。

日本ではまだ、デマンドプランナーは定義されていないことが多く、外部からの採用も非常に難しいというのが実態です。自社のビジネスや顧客に詳しいプロフェッショナルをデマンドプランナーとして育成することが最短の道になりますが、さまざまな予測モデルや予測精度の評価メトリクス、S&OPをはじめとするオペレーションズマネジメント関連の基本的な知識を学ぶ機会を、企業として支援していくことからはじめるのが良いでしょう。

不確実性の高い環境下では、常に精度の高い予測は期待できません。幅を持った需要予測をアジャイルに更新していくという新しい発想が、S&OPを通じてサプライチェーンのレジリエンシーを高め経営を強力に支援すると、私は考えています。

山口雄大(やまぐち ゆうだい)
山口雄大(やまぐち ゆうだい)
東京工業大学生命理工学部卒業。同社会理工学研究科修了。同イノベーションマネジメント研究科ストラテジックSCMコース修了。早稲田大学大学院経営管理研究科修了。化粧品メーカーで10年以上にわたり様々なブランドの需要予測を担当した後、S&OPマネジャー。 コンサルティングファームの需要予測アドバイザー。JILS「SCMとマーケティングを結ぶ!需要予測の基本」講座講師。Journal of Business Forecastingや経営情報学会などで需要予測の論文を発表。他の著書に、『需要予測の戦略的活用』(日本評論社)や『全図解 メーカーの仕事』(共著・ダイヤモンド社)などがある。


i Robert G. Brown, Richard F. Meyer and D. A. D’Esopo. “The Fundamental Theorem of Exponential Smoothing”. Operations Research, Vol. 9, No. 5 (Sep. – Oct. 1961), pp. 673-687.
ii Chaman L. Jain. “Do Companies Really Benefit from S&OP?”. Research Report 15. Institute of Business Forecasting & Planning. 2016.
iii Chaman L. Jain. “Fundamentals of Demand Planning & Forecasting”. Graceway Publishing Company, Inc. 2020.
iv 山口雄大. “新製品の発売前需要予測におけるAIとプロフェッショナルの協同”. LOGISTICS SYSTEMS Vol.30, 2021 秋号, p.36-43.

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