多くの人は、音楽、映画、ゲーム、オンラインコンテンツなどを楽しむため、週に何時間もヘッドホンを使用しています。
しかしお店には、種類や価格帯がさまざまなヘッドホンが並んでおり、何を選べばよいか悩んでしまいます。
アメリカの「インディアナ大学-パデュー大学インディアナポリス校(IUPUI)」音楽芸術技術科のティモシー・スー助教授は、「いいヘッドホン」の定義を解説しています。
プロのミュージシャンであり音楽技術の専門家であるスー氏によると、いいヘッドホンの選択には、科学的・芸術的・人間の主観的な要素を考慮する必要がある、というのです。
目次
人間の耳の限界
ヘッドホンの仕組みと限界
「いいヘッドホン」は組み合わせによって決まる
人間の耳の限界
「いいヘッドホン」の定義を考えるためには、まず音と耳の仕組みを知っておくべきです。
物理学で考えると、音とは空気の振動が作り出す波です。
音源から発せられた音は圧力として、空気分子を圧縮したり拡散したりします。
この繰り返が波となって空間を伝わり、私たちの耳に特定の音を伝えてくるのです。
そして1秒当たりのサイクル数(周波数)が多いと高音になり、少ないと低音になります。
この音程の単位はHz(ヘルツ)であり、人間が認識できる周波数は20~2万Hzだと言われています。
また、波の幅(波高)で音の大きさが変わったり、波の形の違いで音色が変わったりします。
たとえば四角い波形(矩形波)だと、8ビットサウンドと呼ばれるファミコン音源のような音になります。
そして人間の耳は、これら空気の振動の細かな部分(波の数、波の大きさ、波の形)を捉えて、信号に変換し、最終的には脳に伝えます。
この経路は複雑で、次のような信号伝達が次々に行われています。
- 空気の振動
- 鼓膜
- 中耳の骨の振動
- 内耳で電気信号に変換
- 脳が音として解釈
「音の情報」が形式を変え、伝言ゲームのように伝わっていますね。
伝わっていく過程での誤差を考えると、人によって聴こえ方がいくらか異なるのも理解できます。
また、そもそも人間の聴覚自体が、すべての周波数を同等に感じることはできません。
低音と高音が数値的に同じ大きさだったとしても、人間は低音の方が小さく聴こえてしまうのです。
さらに一般的には、人間の耳は高音や低音よりも中音に敏感だと言われています。
つまり、発信源が物理学的にフラットな音を流したとしても、人間がフラットに聴こえることはないのです。
これは「いい音のヘッドホン」をつくるエンジニアや、製品を選ぶ私たちにとって重要なポイントだと言えるでしょう。
ヘッドホンの仕組みと限界
次に、ヘッドホンの仕組みについても考えてみましょう。
耳に被さる大きなヘッドホンでも、耳の中に入れる小さなイヤホンでも、その他のアイテムだったとしても、結局は「小さなスピーカー」だと言えます。
そしてスピーカーは耳とは逆の働きをします。
耳が空気の振動を電気信号として脳に伝える変換器であるのに対して、スピーカーは音楽データの電気信号を空気の振動に変換しています。
ではスピーカーはどのようにして、電気信号を空気の振動へと変換しているのでしょうか?
ほとんどのスピーカーは、次の4つの部品で構成されています。
- 前後に動く磁石、
- 磁石周りのワイヤーコイル
- 振動板を支えるサスペンション(緩衝装置)
- 空気を押し出す振動板「ダイヤフラム」
つまり簡単にいえば、電磁石が磁石を揺らしそれが振動板を動かすことで、電気信号は空気の振動に変換されるわけです。
このプロセスを考えると、電気信号をそのまま音に変換するのが「スピーカーの理想」だと言えます。
しかし、伝言ゲームの正確性に限界があるように、現実の物理世界にも限界があります。
磁石や振動板の大きさや材質の違いにより、スピーカーの入力と出力が完全に一致することなどありえないのです。
そのため、いくらか歪みが生じたり、一部の周波数が元の音よりも大きくなったり小さくなったりします。