私たちは膨大な作業に追われているとき、「猫の手でも借りたい」と感じます。
そしてピアノ演奏はある意味忙しく、そして膨大な作業に追われた状態だと言えるでしょう。
10本の指をメロディに合わせて遅れずに動かさなければいけないからです。
では、もう1本指を借りて上手に演奏することはできるでしょうか?
イギリスの大学インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)生物工学科に所属するアルド・ファイサル氏ら研究チームは、人が第3の親指を追加しても巧みにピアノ演奏できることを示しました。
研究の詳細は、11月1日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
第3の親指を追加してピアノ演奏する
ロボット技術の発展により、装着・操作できるさまざまなロボットアームが誕生しています。
研究チームは、これまでに「追加されたロボットの腕や足」を操作することについて研究してきました。
現在チームが着目しているのは、人間に新たなロボット指を1本追加したとき、どんな影響があるかということです。
今回の実験では、経験豊富なピアノ奏者6人と楽器に不慣れな6人が参加。
参加者たちは右手小指の隣に第3のロボット親指を装着し、すべての指を使ったピアノ演奏にチャレンジしました。
このロボット親指は、右足の靴に装着したセンサーによって動かせます。
右足を上下左右に動かすことで、ロボット親指の位置を変えたり鍵盤を叩いたりできるのです。
では人間の脳には、11本の指すべてを使って演奏する力があるのでしょうか?
またこれまでの演奏経験は、第3の親指の操作にどれほど影響を与えるのでしょうか?
11本の指でピアノ演奏するのに大切なのは演奏経験よりも運動神経
実験中、参加者たちにはピアノ演奏に関する8つのタスクが与えられました。
その結果、経験者も未経験者も1時間以内に第3の親指に順応し、タスクをすべて遂行できました。
ファイサル氏は次のように述べています。
「驚いたことに、ピアノ演奏経験の有無は、11本の指でどれだけうまく弾けるかにあまり関係しないと分かりました。
むしろ、体を動かして制御する能力、器用さ、俊敏性の方が役立ったようです」
つまり新しく追加されたロボット指に順応しやすいかどうかは、タスクの経験ではなく、その人の運動神経に左右されるというのです。
そして参加した皆が1時間以内に順応できたことを考えると、ほとんどの人が、これまでの仕事や作業の経験に関係なく追加のロボット指を使いこなせると言えるでしょう。
今後チームは、脳で直接操作できるロボット指の実験を検討しています。
将来、追加した腕や指で作業効率をアップさせることが普通になるかもしれませんね。
とはいえ2021年5月の研究では、「第3の指の使用が、指の神経表現に関する脳活動を委縮させる」という結果も出ています。
やはり人間は、新しい指や腕に順応しやすいようです。
しかし、その順応が必ずしもメリットだけを生むとは限らないため、実用化には慎重さが求められるでしょう。
参考文献
Test subjects show surprising ability to play piano with a third thumb
Pianists learn to play with robotic third thumb in just one hour
元論文
Playing the piano with a robotic third thumb: assessing constraints of human augmentation
提供元・ナゾロジー
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