レストランで提供されるロブスターは、ほとんどが生きたまま調理されます。
これはロブスターが死んでしまうと、体内から有害細菌が大量に発生し始めてしまうためです。
生きたまま茹でることで食中毒のリスクを最小限に抑えられますし、「ロブスターは痛みも感じないだろうから、何も問題はない」…と考えてしまいそうですが、実は違います。
イギリス政府はこのほど、過去に発表された300以上の研究論文をレビューした大規模調査を実施。
その結果、ロブスターを含む一部の無脊椎動物には「感覚」があるという強い証拠が得られました。
これを受け、政府は今年7月から審議されていた「動物福祉法案」を改正。
十脚類と頭足類(ロブスター、カニ、エビ、ザリガニ、タコ、イカなど)に「感覚」があることを正式に認めました。
感覚とは、痛み・飢え・渇き・喜び・快適さ・興奮などの感情を抱く能力のこと。
これにより、イギリスでは、ロブスターを生きたまま調理することが禁止されるかもしれません。
「ロブスターも痛みを感じる」と正式に認定
イギリス政府は、今年7月から、動物福祉法案について、「すべての脊椎動物が意識を持っていることを法的に認める」ことを審議していました。
しかしその後、新たな修正案として、カニやタコも痛みを感じられるとして、「甲殻類と軟体動物も愛護の対象に含むべき」ことが議題に上がっています。
これは、甲殻類への人道的なあつかいを求める団体・Crustacean Compassionが、「十脚目や頭足類も意識を持っている」と強く訴えたためです。
そこで先述したように、300以上の先行研究を調査し、甲殻類と軟体動物にも「感覚」があることが認められました。
意識と感覚は同義ではないものの、感情は「意識する」という最も基本的な感覚を前提にしているため、密接に関係しています。
たとえば、ロブスターは捕獲・ハンドリング・輸送の段階で大きなストレスを受け、工場に到着した段階では、すでに弱った状態にあり、死んでしまうケースが多いのです。
ロブスターのような十脚類やタコのような頭足類は、痛みを感じるだけでなく、痛みや脅威を感じる物体や状況を認識・記憶し、それを回避するための行動を取ることができます。
また、十脚類には、人間のような脳はありませんが、痛みを伝える感覚受容器やモルヒネに反応するオピオイド受容器など、複雑な神経系を持っています。
そこでイギリス政府は、十脚類と頭足類を正式に動物愛護の対象と定めることを決定しました。
しかし、今回の法改正は、(少なくとも現時点では)漁業や飲食業における現在の慣行にただちに影響を与えるものではありません。
ただし、ゆくゆくはロブスターやタコの非人道的な扱いが禁止される可能性はあります。
報告されたレビューでは、将来的な動物福祉保護政策のために、甲殻類の触覚を取ることや、生きたまま茹でたり、カットしたりすることを禁止する旨が提言されています。
この法案が成立すると、レストランでロブスターやタコを生きたまま調理する行為はなくなるでしょう。
こうした動きは、異例なことではありません。
すでにスイスやニュージーランドでは、甲殻類を生きたまま煮ることが違法とされています。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス&ポリティカル・サイエンス(London School of Economics and Political Science)のジョナサン・バース(Jonathan Birth)博士は、「イギリスが動物福祉でリードできる方法のひとつは、これまで完全に無視されてきたこれらの無脊椎動物を保護することだ」と述べています。
日本ではまだそのような動きは見られませんが、このルールが世界に広がってゆくと、あとに従うしかないかもしれません。
参考文献
Lobsters, octopuses and crabs recognized as “sentient” in the UK
元論文
Lobsters, octopus and crabs recognised as sentient beings
提供元・ナゾロジー
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