私たちの脳は、細部を忘れたり、間違って記憶していたりする場合があります。

「先週、ピクニックのお弁当に入れてくれた梅おにぎり美味しかったよ」なんて話を家族としたら、「あら、作ったの高菜のおにぎりよ」なんて言われたり、そんな記憶違いは日常でちょくちょく起こります。

そんなふうに、つい最近の出来事が正確に記憶できていないと、「私、ボケてきた?」と不安になるかもしれません。

最近のことを記憶違いしてしまうのは、いわゆるボケの始まりなのでしょうか?

ところがアメリカ・ロンチェスター大学(University of Rochester)の認知科学者ロバート・ジェイコブス氏は、「細部を覚えていないのは脳機能が正常に働いている証拠」だと語ります。

実のところ、記憶の不確かさを理由に、脳機能の低下を心配する必要はないかもしれません。

目次

  1. 人間の知覚や認知は最適なのか?
  2. 細部を間違えて覚えるのは脳の最適化によるものだった

人間の知覚や認知は最適なのか?

私たちは、細部を事実とは異なって記憶する場合があります。

しかしこれは、人間の脳が最適化した結果だと言われています。

例えば、人には動いている物体の速度を過小評価する傾向があるようです。

これは人間の運動知覚が最適でないことを示すものでしょうか?

「細部を覚えていない」ことはボケではなく脳が正常に機能している証だった
(画像=人は物体の速度を過小評価する / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

2002年の研究では、「物体の速度を過小評価すること」が、統計学の観点で見るとむしろ最適な反応だったと分かりました。

なぜなら、「世の中のほとんどの物体は止まっているか、ゆっくりと動いている」からです。

確かに、私たちの目に映る情報の大部分(景色など)は、ほとんど動きません。

そのため脳は、それら一般的な情報(常識)を考慮して、知覚した物体の速度を下方修正したのです。

「常識で考えると、物体はそんなに速く動かないよね」と結論付けるわけです。

もちろん結果だけを見ると間違った認知なのですが、これは脳が正常に働いている証拠でもあります。

これには入手情報の不完全さも関係しています。

人の目は機械ではないので、物体の速度を正確に測定できるわけではありません。

そのため脳はその不完全な視覚情報を補うために、一般論を持ち出して補完していたのです。

これはつまり、脳ができるだけ正しい認知を得るために最適化した結果だと言えるでしょう。

では、記憶についてはどのように考えられますか?

細部を間違えて覚えるのは脳の最適化によるものだった

完全な情報すべてを入手したり、記憶したりできれば、正確な認知が可能でしょう。

しかし人間の知覚能力や記憶容量には限界があります。

そのため脳は、「全ての情報を集めて保持し、そこから考慮する」という非効率的な方法はとりません。

むしろ「重要な情報だけを保持し、足りない部分は一般論から補足する」という方法をとるのです。

これは、「ヒューリスティック(発見法)」と呼ばれています。

一般論による推測が含まれるので、当然ながら認知が100%正確になることはありません。

しかし非常に少ない記憶量で、ある程度正しい情報を引き出せるようになるのです。

「細部を覚えていない」ことはボケではなく脳が正常に機能している証だった
(画像=脳は細かい情報を一般論で補う / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

冒頭で述べたおにぎりの間違いもこの最適化によって生じています。

経験の要点は「先週のピクニックで食べたおにぎりが美味しかった」という部分であり、細部は記憶されていません。

そこで脳は、おにぎりの王道である「梅おにぎり」でその細かい空白を埋めてしまったのでしょう。

つまりこの間違いは、人間の脳があらゆる制限の中で可能な限りうまく機能している証拠だと言えます。

ジェイコブス氏は、「これは良いことだと思います」と結論付けました。

ですから私たちは、細部を忘れたり間違ったりしても堂々としていましょう。

もちろん、大切なことを忘れてしまわない限り、でしょうが。

参考文献
Misremembering might actually be a sign your memory is working optimally

提供元・ナゾロジー

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