9月24日、医学誌『New England Journal of Medicine』の報告によると、マサチューセッツ州のある男性が急な心肺停止に陥り、死亡してしまったとのこと。

そしてその原因は「甘草リコリス」が用いられたリコリス菓子の過剰摂取でした。

サルミアッキやルートビアの甘味料として知られるリコリスを短時間で食べ過ぎるなら、命の危険に達するまで血圧が上昇したり不整脈になったりする恐れがあるのです。

目次

  1. リコリスの食べすぎで死亡
  2. 砂糖の30~50倍の甘さをもつグリチルリチン
  3. リコリスの危険性は以前から警告されていた

リコリスの食べすぎで死亡

ルートビアの甘味料「甘草リコリス」を食べすぎて男性が急死
(画像=サルミアッキ(塩化アンモニウムとリコリスのキャンディ) / Credit:Shaddack/wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

亡くなった男性は54歳の建設労働者でした。

彼の家族によると、もともとお菓子が大好きで毎日大袋のソフトキャンディを1~2袋も消費していたとのこと。

そして死亡した日の数週間前からフルーツ風味のキャンディをブラックリコリスキャンディへと切り替えていたようです。

その結果、この男性はファーストフード店で突然震え始め心肺停止状態に陥りました。病院へ救急搬送され一時は心肺蘇生に成功したものの、翌日帰らぬ人となってしまったのです。

彼を治療した医師によると、男性の血中カリウム濃度は非常に低下しており、それが原因で血圧の上昇や不整脈を引き起こしていたとのこと。

男性を死に追い込んだ「甘草リコリス」とはどのようなものなのでしょうか?

砂糖の30~50倍の甘さをもつグリチルリチン

ルートビアの甘味料「甘草リコリス」を食べすぎて男性が急死
(画像=リコリス / Credit:Commons/wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

甘草リコリスの甘味成分は根に由来する化合物「グリチルリチン」であり、スクロース(砂糖)の30~50倍の甘みをもつと言われています。

加えてスクロースよりも低カロリーであり、消化性潰瘍治療など多数の薬効が確認されています。そのため単なる調味料としてだけでなく、漢方や西洋医学でも利用されてきました。

ちなみにグリチルリチンの甘さには独特の味が付いているため、純粋な砂糖の代用品にはなりません。

とはいえ、これらの特徴を利用したキャンディは北アメリカやヨーロッパで古くから親しまれてきました。

日本でも近年、サルミアッキという名のリコリスキャンディが知られるようになってきました。また沖縄県で愛飲されているルートビアという名の清涼飲料水にもリコリスが含まれています。

しかしグリチルリチンには大量摂取による副作用があるのです。

リコリスの危険性は以前から警告されていた

ルートビアの甘味料「甘草リコリス」を食べすぎて男性が急死
(画像=A&Wのルートビア / Credit:Grassbag/wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

リコリスの甘味成分「グリチルリチン」にはカリウムの排泄を増加させる効果があり、これにより血中のカリウム濃度が低下します。

当然、リコリスを大量に摂取することで低カリウム血症になり、手足のしびれや脱力感が現れるでしょう。また不整脈に繋がることもあり、心臓病を患っている人は特に注意が必要なのです。

今回の男性は稀なケースではあるものの、グリチルリチン過剰摂取により不整脈にまで繋がってしまったようです。

ちなみにリコリスの危険性は以前から警告されていました。

米国食品医薬品局(FDA)は2017年に、1日2オンス(約57グラム)のブラックリコリスを2週間食べ続けると、特に40歳以上の人にとって不整脈を引き起こすリスクがあると指摘していました。

さらにFDAはグリチルリチンの含有量の上限を食品の3.1%と定めていますが、現在流通している多くの商品にはその含有量が明記されていません。そのため医師は再びリスク喚起がなされることを期待して、今回の症例をFDAに報告しました。

今回の症例は「薬効を期待できるものは、その量によっては副作用が現れる」ことを改めて強調するものとなりました。

リコリス菓子メーカーである「HersheyCompany」が述べているように、「適度に楽しむ」のが最善なのでしょう。


参考文献

apnews


提供元・ナゾロジー

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