point
1400年前のヴァイキングの遺骨から、「天然痘ウイルス」を発見
既存の天然痘ウイルスの物的証拠を1000年近くも更新
ヴァイキングの天然痘ウイルスは、20世紀のものと遺伝子的に異なっていた
人類は今、新たな感染症との闘いを強いられていますが、同様の闘いは過去にいくつも繰り広げられて来ました。
中でも、多くの死者を出したのが「天然痘(smallpox)」です。
天然痘の始まりは定かでありませんが、長きにわたって人類を苦しめ、20世紀だけで約3億人の命が奪われています。
歴史家によれば、天然痘ウイルスは紀元前1万年から存在するそうですが、17世紀以前に天然痘ウイルスが存在した物的・科学的証拠はありません。
ところが今回、ヨーロッパ北部の遺跡から出土したヴァイキングの歯の化石から、約1400年前の天然痘ウイルスが発見されたのです。
天然痘ウイルスの物的証拠の中では最も古く、既存の記録を1000年近くも遡ると言われています。
研究は、ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ、デンマーク・コペンハーゲン大学らにより報告されました。
人類が闘いに勝利した唯一の感染症
天然痘は、「天然痘ウイルス」を病原体にする感染症です。
人に対する感染力が非常に強く、致死率は平均して20〜50%に達しました。
飛沫や接触により感染し、約1〜2週間の潜伏を経て発症します。初期は40度前後の高熱が出て、3〜4日後に一度熱が下がります。それから全身に豆粒のような発疹が広がり、7〜9日後に再び高熱が出ます。
発疹は化膿して膿疱(のうほう)となりますが、体表面だけでなく、呼吸器や消化器といった内臓にもできるので、最悪の場合、重篤な呼吸不全を起こし、死に至ります。
それでも天然痘は、人類史上初めて根絶に成功した唯一の感染症でした。
ワクチンの開発により、1977年を境に感染者は出ておらず、1980年5月8日にWHOが「地球上からの天然痘の根絶成功」を宣言しています。
見つかった「天然痘ウイルス」は遺伝子構造が違っていた
研究チームは、イギリス、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、ロシアにあるヴァイキング時代の遺跡11ヶ所から、複数の遺骨に天然痘ウイルスを発見しました。
新たに見つかったウイルス株のゲノム配列を行ない、4つのサンプルについて、ほぼ完全なゲノム再構築に成功しています。
その結果、遺骨に見つかった天然痘ウイルスは、少なくとも1400年前のものであり、遺伝子構造が20世紀に根絶されたものと異なっていました。
ヴァイキングの天然痘ウイルスは、遺伝子的に「ラクダ痘」やげっ歯類の「タテラポックス」といった動物性のポックスウイルス科に近いことが判明しています。
このことから、ヴァイキング時代の天然痘は、20世紀ほどの危険性を持っていなかったかもしれません。実際、ヴァイキングの死因が、天然痘であるかどうかは断定できないそうです。
また、20世紀の天然痘ウイルスと比較すると、活性遺伝子と不活性遺伝子のパターンが大きく異なっていました。ここからウイルスが変異して、より危険な殺人ウイルスに進化する道が複数示されています。
これは天然痘ウイルスの変異プロセスを知る上で重要な発見です。
ウイルス変化のメカニズムを解明することは、この先、人類を襲う新たな感染症を食い止めるために非常に役に立ちます。
天然痘ウイルスは根絶されましたが、明日には別のウイルスが動物から放たれるかもしれません。新型コロナウイルスがその格好の例になります。
人類が存続する限り、感染症との戦いは果てしなく続いていくでしょう。
研究の詳細は、7月24日付けで「Science」に掲載されました。
Diverse variola virus (smallpox) strains were widespread in northern Europe in the Viking Age
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功