タコはとても知能が高く、認知機能は一部の小型哺乳類に匹敵すると言われています。

しかし、タコの生態と中枢神経系との関連性については専門家の関心も高く、研究が進んでいるにもかかわらず、その知識のほとんどは、沿岸部に棲むマダコから得られたものです。

そこで、クイーンズランド大学(University of Queensland・豪)の研究チームは、深海およびサンゴ礁に分布する各種のタコの脳を比較。

その結果、タコの脳構造は、住んでいる場所や習慣によって大きく異なることが明らかになりました。

夜行性か昼行性か、単独か社会的かでもガラリと変わるようです。

研究は、11月18日付けで学術誌『Current Biology』に掲載されています。

タコの脳をMRIでスキャンした結果…

タコをMRIにのせて種ごとの脳構造の違いを調査
(画像=タコをMRIでスキャン / Credit: Justin Marshall et al., Current Biology(2021)、『ナゾロジー』より引用)

タコは種によって生息域が違い、ある種は陽のあたる沿岸部やサンゴ礁に、ある種は真っ暗な深海部をすみかとします。

それにより異なる選択圧が働き、夜行性か昼行性、単独行動か社会的行動かに分かれます。

しかし、こうした生態の違いが、タコの中枢神経系にどのような影響を与えているかは、あまり研究されていません。

そこで同大脳研究所のチームは、MRI(核磁気共鳴画像法)を用いて4種のタコをスキャンし、詳細な3D画像を作成して、それぞれの脳構造を比較しました。

対象となったのは、深海性のタコが1種(コウモリダコ)、単独で行動する夜行性が1種、サンゴ礁に生息する社会的かつ昼行性が2種です。

タコをMRIにのせて種ごとの脳構造の違いを調査
(画像=生息域の異なる4種を調査 / Credit: Justin Marshall et al., Current Biology(2021)、『ナゾロジー』より引用)

脳スキャンの結果、深海性のタコは、陸上の有袋類やげっ歯類のような平坦で滑らかな脳を持っており、単独行動や他の生物との限られた交流を反映していました。

脳としては、マイペースでゆったりとした生活リズムに適しているとのことです。

一方、サンゴ礁に生息するタコの脳はそれよりかなり大きく、霊長類に似た性質を持っていました。

深海種とは対象的に、明るい環境下での視覚作業や、多くの生物種がいる中での社会的行動に適しています。

サンゴ礁域のタコは、深海種では見られない複雑な行動を取ります。

たとえば、同じサンゴ礁に棲む魚との共同狩猟では、タコがリードを取り、魚は獲物を探したり、タコが見逃した小モノを捕獲したりして狩りに参加します。

共同狩猟の一環として異種間でジェスチャーをやりとりし、それに反応する能力は、タコが複雑な認知能力を持っていることを何よりも雄弁に語っているでしょう。

タコをMRIにのせて種ごとの脳構造の違いを調査
(画像=一番上が深海性、下3つはサンゴ礁に分布するタコの脳 / Credit: Justin Marshall et al., Current Biology(2021)、『ナゾロジー』より引用)

また、種による脳構造の違いは、脳の表面積の大きさに関係しており、表面積が大きいほど神経系が複雑で認知能力が高いことを示しています。

研究主任のジャスティン・マーシャル(Justin Marshall)氏は、こう述べています。

「タコの脳は、住んでいる場所や活動する時間帯、他の生物との関わり方などによって、大きく変わることが示されました。

私たちは今後、タコの脳構造が、行動や視覚、高度な認知能力とどのように関連しているかを解明していく予定です」


参考文献

How smart is an octopus?

元論文

Comparative brain structure and visual processing in octopus from different habitats


提供元・ナゾロジー

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