フジツボは、岩や海洋生物、船体にくっつく固着動物です。
一度くっつけば、動かざること山のごとしのイメージが強いですが、このほど、台湾・中央研究院(Academia Sinica)の最新調査により、「動くフジツボ」が発見されました。
このフジツボは、主にウミガメに固着する既知種で、1週間に約1.4ミリずつ移動することが判明しています。
フジツボが自らの意思で移動していることを実験的に確認したのは今回が初めてです。
研究は、10月6日付けで学術誌『Proceedings of the Royal Society B』に掲載されています。
移動目的は「より良いエサ場」を見つけるため?
フジツボは、貝類と同じ軟体動物と誤解されがちですが、実際はエビやカニなどの甲殻類に属します。
1829年に、フジツボが、甲殻類と同じ自由遊泳性のノープリウス幼生として孵化することが判明し、それから甲殻類に分類されるようになりました。
成熟したフジツボは、数ミリ〜数センチほどで、海底岩や他の生物に固着します。
食事は、蔓脚(まんきゃく)と呼ばれる手足を使って、海水中のプランクトンをろ過して食べています。
また、固着については、セメントとなる接着物質を分泌することで、自らを固定します。
本研究主任のベニー・チャン氏は「学生の一人がカニの甲羅に固着したフジツボ(Chelonibia testudinaria)をアクリル板に移すことに成功したのをきっかけに、本種の移動性を実験的に検証することにした」と話します。
このC. testudinariaは、ウミガメの皮膚や甲羅に固着することで知られる種です。
実験では、アクリル板に移した15匹のC. testudinariaを1年間にわたって時系列写真で追跡。
さらに、スペインの研究チームと共同で、飼育下にある5匹のアカウミガメの甲羅に付着させたC. testudinariaの動きを数ヶ月にわたって追跡しました。
その結果、カメに固着していたC. testudinariaは、16週間で54ミリ移動していることが判明したのです。
アクリル板の個体も同様に動いており、板上には幾層にも重なったセメントの痕跡が残されていました。
これは、フジツボが一度固着したセメントを部分的に溶かして、少しずつ移動していることを示唆します。
フジツボは、ほとんどの場合、海流の流れに逆らって移動しており、水の流れの圧力だけで移動しているわけではないことも示されました。
また、フジツボ同士の距離が縮まっていないことから、交尾の機会ではなく、水中のプランクトンをろ過するためのより良い場所を探していると考えられます。
本研究には参加していないハワイ大学マノア校(University of Hawaii at Manoa)のタラ・エソック=バーンズ(Tara Essock-Burns)氏は、こう述べています。
「この結果から、ウミガメに固着するC. testudinariaには、他のフジツボ種とはまったく異なる生化学を持っている可能性があります。
半永久的に固着するフジツボとは違い、セメント自体に柔軟な特性があるのかもしれません」
研究チームは今後、この点も含めて、個体群がひしめき合う潮間帯のフジツボにも移動能力があるかどうかを調査する予定です。
参考文献
Barnacles are famed for not budging. But one species roams its sea turtle hosts
元論文
Five hundred million years to mobility: directed locomotion and its ecological function in a turtle barnacle
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功