仲間回路の存在がサルで確認されました。

米国ハーバード大学で行われた研究によれば、サルが相手を仲間として認定し、利他的なプレゼントをするときに活性化する「仲間回路」が発見された、とのこと。

またプレゼントをもらったサルは、自分がプレゼントをあげられる状況になると同様の仲間回路を作動させ、お返しをするようです。

仲間回路の存在は、サルの脳に500本の電極を刺し込み、個々の脳細胞の活動を調査することで明らかになりました。

研究内容の詳細は10月22日に『Science』にて公開されています。

目次

  1. サルの脳に500本の電極を刺し込んで仲間とその他を決定する回路を発見!
  2. 仲間回路を遮断すると嫌いなはずのサルにプレゼントするようになる

サルの脳に500本の電極を刺し込んで仲間とその他を決定する回路を発見!

近年の脳科学の進歩により、特定の行動が、対応する脳回路の活動に対応していることがわかってきました。

例えばマウスにおいては「虐待回路」を、脳に刺し込んだ光ファイバーで活性化させると乳児の虐待を引き起こし、抑制すると虐待をストップさせられます。

この結果は、動物にみられる多くの行動が、対応する回路の活性に支配されていることを示す一端と言えるでしょう。

しかしマウスから得られる知見は限定的であり、応用するにはより人間に近いサルなどの霊長類を用いた実験が必要でした。

そこで今回、ハーバード大学の研究者たちは、人間に近いサル(アカゲザル)を用いて、仲間意識や特定の相手に対する好き・嫌いにかかわる脳回路を探索することにしました。

研究者たちはまず、サルの他者の気持ちを思いやったり、自分と他者の区別を行うといった機能を担当する背内側前頭前野(dmPFC)に500本の電極を刺し込み、500個のニューロンの活動を同時に記録できるようにしました。

サルの脳に500本の電極を刺し込んで「仲間を見分ける脳回路」を発見
(画像=円卓を動かせるのは下のサルだけ / Credit:RAYMUNDO BÁEZ-MENDOZA et al . Social agent identity cells in the prefrontal cortex of interacting groups of primates . Science (2021)、『ナゾロジー』より 引用)

次いで研究者たちは3匹のサルを2個のリンゴが置かれた回転する円卓に配置しました。

ただ3匹のサルのうち、卓を回せるのは1匹のみです。

そのため卓を回せるサルは自力でリンゴをゲットできますが、その過程で他の2匹のどちらかにリンゴをプレゼントすることが可能です。

するとサルは相手をみて、自分の好みのサル(仲間)にリンゴをあげられる方向に卓を回しました。

研究者たちは同様の利他的な状況を、リンゴの数や位置を変えながら3匹のサルたちに繰り返し行わせます。

すると興味深いことに、プレゼントを受けたサルは自分がプレゼントをできる機会(卓を回す権利)がくると、過去にプレゼントをしてくれたサルにお返しをする一方で、プレゼントをくれなかったサルには報復する場合もみられました。

リンゴと回る円卓によって、3匹の間には好意と敵意、嫉妬と羨望が渦巻く関係が構築されていたのです。

問題はここからです。

プレゼントを授受しているときのサルの脳では、いったい何が起きていたのでしょうか?

仲間回路を遮断すると嫌いなはずのサルにプレゼントするようになる

サルの脳に500本の電極を刺し込んで「仲間を見分ける脳回路」を発見
(画像=仲間回路を遮断すると嫌いなはずのサルにプレゼントするようになる / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)

利己と利他がうずまく「円卓のサル」の脳では何が起きていたか?

研究者たちはサルの行った行動の種類にあわせて、500本の電極がキャッチした500個の脳細胞の活動パターンを比較しました。

結果、極が刺し込まれた背内側前頭前野(dmPFC)の細胞は、特定のアクションと結果に連動して活性化していました(たとえば、リンゴをプレゼントされたという結果に反応する細胞グループ)。

また細胞の多くは、目の前で行われている行動や結果だけでなく、他のサルたちの過去の行動に関する情報もコード化して保存していました。

また全ての細胞の活動を総合的に分析することで研究者たちは、卓を回す権利を得たサルが次にどのような行動を起こすか(どちらのサルにプレゼントを与えるか・または報復を行うか)を70%の精度で予測できるようになりました。

この結果は背内側前頭前野(dmPFC)がサルの「仲間回路」を内包していることを示します。

なおマウスでは、仲間に反応して助けようとする回路が発見されています。

しかしより興味深い結果は、電極を使ってプレゼントの授受が行われるときに活性化する背内側前頭前野(dmPFC)を電気刺激で遮断したときに起こりました。

仲間とのプレゼント授受にかかわる背内側前頭前野(dmPFC)の機能を遮断されたサルは、プレゼントを往復させる頻度が減るだけでなく、細胞の活動から予測されるのとは逆の行動パターンをとり、本来は嫌いだったサルにプレゼントをする頻度が増えていたのです。

研究者たちは今後、この脳領域の機能を直接的・間接的に制御することで、人間関係を円滑にするような薬を開発できると考えています。

もしかしたら未来の世界では、誰もが陽キャとなれる薬で、交友や恋愛を楽しんでいるかもしれませんね。


参考文献 Researchers map neurons in the brain involved with social interactions with others in groups

元論文 Social agent identity cells in the prefrontal cortex of interacting groups of primates


提供元・ナゾロジー

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