映画などのフィクションの世界では、宇宙空間に放り出された生身の人間に劇的な変化が訪れます。

急激に膨張して爆発したり、瞬時に凍り付いたりするのです。

これは明らかに「大げさな表現」ですが、人体では同じような効果が控えめに生じています。

ここでは、宇宙空間で人体がどうなってしまうのか解説します。

目次

  1. 真空では体内の水が沸騰し、人体を膨張させる
  2. 真空でも人体は爆発しない!一瞬であれば生き残ることが可能!
  3. 宇宙空間では凍死するまえに窒息と膨張で死んでしまう

真空では体内の水が沸騰し、人体を膨張させる

液体の沸点は、気圧に応じて変化します。

気圧が小さくなればなるほど、沸点も下がるのです

実際、地表の標準的な気圧環境では水が100℃で沸騰しますが、富士山の頂上では87℃で沸騰するのです。

では、宇宙まで高度を上げるとどうなるのでしょうか?

生身で宇宙空間に出たとき、人体はどれだけ耐えられるのか?
(画像=宇宙空間では水の沸点が下がり蒸発する / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

宇宙は空気がない真空状態であり、当然大気圧もありません。

そのため液体の沸点は大きく下がります。

NASAの科学者であるクリス・レーンハート博士は、人体への影響について次のように述べています。

「人体の60%が水でできていることを考えると、これは深刻な問題だと言えるでしょう。

気圧がない場合、体内の水分は沸騰し気体に変化します。

つまり、水分を含むすべての組織が膨張し始めるのです」

とはいえ、映画のようにすぐに体が爆発したり、血液が沸騰したりすることはありません。

真空でも人体は爆発しない!一瞬であれば生き残ることが可能!

生身で宇宙空間に出たとき、人体はどれだけ耐えられるのか?
(画像=宇宙空間で爆発することはないが膨張はする / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

人体は非常に柔軟で丈夫なので、減圧で膨張はするものの、爆発することはありません。

真空では人体が最終的に2倍にまで膨れ上がると言われており、その過程で臓器に致命的なダメージを与えます。

しかしそれらが瞬時に起こるわけでありません。

実際、真空に近い状態にさらされても生き残った人はいます。

1966年、NASAの技術者であるジム・ルブラン氏は、巨大な真空チャンバーの中で宇宙服のテストを行っていました。

ところがある時点で宇宙服のホースが外れてしまい、意識を失うことになったのです。

すぐに救助されたため、命に別状はありませんでした。

彼は、このときのことを振り返って、次のように述べています。

「意識を失う直前に唾液が泡立ち始めたのを感じた」

これは舌先の水分が沸騰したことを表しているのでしょう。

生身で宇宙空間に出たとき、人体はどれだけ耐えられるのか?
(画像=宇宙空間では、一瞬たりとも宇宙服を脱ぐべきではない / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

ちなみに2013年の調査によると、過去の例では、動物と人間は真空状態で10秒以内に意識を失うとのこと。

またそれが一瞬でも影響は大きく、膀胱や腸の機能が失われたり、膨張した筋肉が心臓と脳への血流を妨げたりしました。

レーンハート博士によると、「人間はこの膨張を生き残ることはできません。2分以内に死に至る可能性が高いのです」と述べています。

では血液もすぐに沸騰するのでしょうか?

そうではないようです。

人間の血管には外部よりも高い圧力が加わっているため、すぐに血液が沸騰することはありません。

血液が沸騰するとしたら、それはほぼ死にかけて血圧が大きく下がった場合でしょう。

宇宙空間では凍死するまえに窒息と膨張で死んでしまう

宇宙空間で人間が死ぬ要因は、膨張だけではありません。

真空状態では肺から空気が抜けてしまうため、数分で窒息してしまうのです。

では、人間が宇宙空間で凍り付いて死ぬことはあるのでしょうか?

答えはNOです。

ほとんどの宇宙空間は-270℃なので、そこにさらされた人体は瞬時に凍るように思えます。

しかし実際には、体温がすぐに放出されることはありません。

なぜなら、そもそも温度の変化とは、「熱を伝える」ことによって生じるからです。

真空では熱を伝える物質が存在しないため、地球上のように、人体の熱が他の物質(空気など)に伝わって失われていくことがないのです。

生身で宇宙空間に出たとき、人体はどれだけ耐えられるのか?
(画像=宇宙でも一瞬で人体が凍ることはない / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

とはいえ体内の水分の蒸発に伴って、人体から熱が奪われていくのは事実です。

水分量が多い口や鼻周りはうっすら凍るかもしれませんね。

しかし体の他の部分の蒸発量は少ないため、冷え方はゆっくりでしょう。

また、あらゆる物体は自身の熱を電磁波として放射し続けています。

人体も例外ではありませんが、この放射もゆっくりと起こるので、一瞬で体が凍ったり、体温低下ですぐに死んだりすることはありません。

さて、宇宙空間で人体がどうなるのか考えてきました。

人間の意識は10秒ほどで失われ、数分以内に酸素不足と膨張で死んでしまいます。

映画のように劇的ではありませんが、同様の作用がゆっくりと生じるのは確かなようです。

そして意識をすぐに失うことを考えると、「人間は一瞬たりとも真空にさらされるべきではない」のです。

参考文献

What would happen to the human body in the vacuum of space?

提供元・ナゾロジー

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