カリフォルニア大学アーバイン校(UCI・米)の研究により、ネイティブ・アメリカンが薬草として使ってきた植物に、鎮痛作用と下痢止めの効果を持つ分子が発見されました。
UCI医学部・生理学教授のジェフリー・アボット(Geoffrey Abbott)氏は「これは、ネイティブ・アメリカンの薬に関する深い知恵に新たな焦点を当てるもの」と述べています。
また、発見された分子は、中毒性のない安全な治療薬の開発に応用できるとのことです。
研究は、11月11日付けで学術誌『Frontiers in Physiology』に掲載されています。
ネイティブ・アメリカンが重宝した「8種の薬草」
現代の薬理学が登場する以前、人々は病気になったとき、自然に頼るしかありませんでした。
具体的には、傷を治したり、沈んだ心を癒したりする植物を追い求めていました。
薬草の最古の使用証拠は6万年前にさかのぼり、ネアンデルタール人の男性が8種類の薬草とともに埋葬されていた例が見つかっています。
合成薬が普及した現代でも、薬剤師のカウンターに並ぶ代表的な薬の約40%は、人類が何世紀にもわたって使用してきた植物に由来します。
中でもネイティブ・アメリカンは、薬草の知識が非常に豊かだったことで有名です。
ある伝承によると、ネイティブ・アメリカンが薬草を使い始めたのは、病気にあった動物が特定の植物を食べているのに気づいたことがきっかけだったという。
彼らが愛用した代表的な薬草には、以下のものがあります。
・ムラサキツメクサ(炎症や呼吸器系の症状に効果的)
・ヌマミズキ(胸の痛みを和らげる)
・カリフォルニアフクシア(口や喉の症状に効果的)
・カンアオイ(耳の痛みや耳の感染症に効果的)
・北米ニレ(皮膚の症状や喉の痛み、クモに咬まれたときに効果的)
・ラベンダー(不眠症、不安症、うつ病に効果的)
こうした薬草は重宝されていたので、ネイティブ・アメリカンは、見つけた分の3分の1だけを採取するなど、過剰な収穫を避けていました。
本研究では、カリフォルニア州にあるミュアウッズ国定公園(Muir Woods National Monument)にて、ネイティブ・アメリカンが使っていた植物を採取し、抽出したエキスから分子構造を調べました。
植物エキスに「鎮痛」と「下痢止め」の作用を発見
研究チームは、公園内に広がるセコイア林で採取された40種の植物を分析対象としました。
これらの植物は、ネイティブ・アメリカンが虫刺されや、ただれ、火傷などの局所的な鎮痛剤として使用してきた長い歴史を持っています。
分析の結果、複数の植物種は、脳と他の組織間で電気信号を伝達する「KCNQ2/3カリウムチャネル」を活性化することが分かりました。
KCNQ2/3は、痛みを感じる神経細胞に存在し、活性化により痛みの信号の強さを下げることができます。
40種のうち9種の植物の抽出分子に、KCNQ2/3を有意に増加させる機能が発見されました。
その一方で、KCNQ2/3を活性化する同じ植物の分子は、腸内に存在する「KCNQ1-KCNE3カリウムチャネル」に対して、真逆の作用(不活性化)を示したのです。
しかし、これは悪いことではなく、KCNQ1-KCNE3の不活性化により、胃腸内の働きが改善され、下痢を予防できます。
下痢は甘く見ていい症状ではなく、世界の子どもの死因の9分の1を占めており、エイズ、マラリア、麻疹(はしか)の合計より多いのです。
研究主任のジェフリー・アボット氏は、次のように述べています。
「本研究の成果は、ネイティブ・アメリカンの薬用習慣から学ぶべきことがいかに多いかを示しています。
分子力学的なアプローチを適用することで、彼らが薬草を使用する際の分子的な合理性を明らかにし、そこから新たな薬剤を開発できる可能性が大いにあるのです」
今回の発見に触発されたアボット氏らは、現在、北米原産の植物を対象とした広範なスクリーニングを行っており、さまざまな症状の治療に利用できる新しい分子を探しています。
すでに、いくつかの植物に含まれるクェルセチン、タンニン、没食子酸(ぼっしょくしさん)が、主要な薬効成分であることを特定しています。
特に興味があるのは、新たな非オピオイド系鎮痛剤の可能性です。
2018年のデータによると、慢性痛のためにオピオイドを処方された患者のうち、最大30%が誤用、10%が中毒症状を発症しています。
さらに、薬物過剰摂取によるアメリカの年間死者10万人のうち、大半はオピオイドが原因となっているのです。
これに取って代わる安全な薬用成分が、ネイティブ・アメリカンの重宝した薬草の中に隠されているかもしれません。
参考文献
Medicinal plant extract used by Native Americans can treat both pain and diarrhea
元論文
KCNQ and KCNE Isoform-Dependent Pharmacology Rationalizes Native American Dual Use of Specific Plants as Both Analgesics and Gastrointestinal Therapeutics
提供元・ナゾロジー
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