人類に家畜化された鳥の代表はニワトリであり、養鶏の歴史は少なくとも8000年前に遡ると言われています。
しかし今回、ペンシルベニア州立大学(Pennsylvania State University)を中心とする国際研究チームにより、約1万8000年前のニューギニアの古代人は、大型鳥類のヒクイドリを飼育していた可能性が浮上しました。
これは養鶏が始まる数千〜1万年前のことであり、サイズや攻撃力など、ニワトリとはわけが違います。
一体、何のために飼育していたのでしょうか?
研究は、9月27日付けで学術誌『PNAS』に掲載されています。
卵殻から「ヒナの発生段階」を特定する方法を確立!
ヒクイドリ(火食鳥)は、ニワトリのような並の鳥類ではありません。
固有種はインドネシア、ニューギニア、オーストラリア北東部の熱帯雨林に分布しており、エミューやダチョウと同じ”飛べない鳥”です。
平均的な高さは127〜170センチで、最大個体だと190センチ、85キロにもなります。
現存する鳥類の中でも、ダチョウとともに最大種の一つであり、鋭い爪や足など、かつての恐竜の面影を残した巨鳥です。
一方で、ヒクイドリのヒナには刷り込みが可能であり、飼育も比較的容易で、成鳥まで育て上げることができます。
(刷り込み:孵化したばかりのヒナが最初に目にしたものを母親と認識する習性。それが人間だった場合、ヒナはどこまでもその人の後をついて回るようになる)
成鳥もおとなしい性格ではあるものの、体格や攻撃力の高さに変わりはなく、2019年には飼い主を殺害した事件も報道されています。
さて、今回の研究チームは遺跡から見つかる卵の殻の研究を行っていました。
その過程から、チームは卵の殻からヒナの発生段階を特定する新たな方法を開発したのです。
研究主任のクリスティーナ・ダグラス氏は、こう話します。
「私は長年の間、考古学遺跡で見つかる卵殻を採取し、調査してきました。
その中で、七面鳥の卵殻に関する研究において、卵殻は胚が成長する過程で変化し、それがヒナの発生段階を示すことが発見されたのです。
これは非常に有効なアプローチだと考えました」
胚やヒナの発生段階は、卵殻の内側の3次元的な特徴に依存します。
また、卵殻の内側が変形するのは、発生中のヒナが卵殻からカルシウムを摂取するためと判明しました。
この仕組みを元にした胚(ヒナ)の発生段階の特定は、ダチョウの卵殻サンプル計504個の分析から、高い正確性を誇ることが確認されています。
研究チームは、このモデルをニューギニアの遺跡で見つかったヒクイドリの卵殻に適用しました。
すると、ちょっと不自然に思われる事実が発見されたのです。
世界最初の「鳥類の家畜化」の可能性も
本研究で対象としたのは、約1万8000〜6000年前のヒクイドリの卵、計1000個以上の断片です。
卵殻サンプルを分析し、データをまとめた結果、大半の卵殻がヒナの孵化直前か直後に当たることが分かりました。
遺跡で見つかる鳥の卵は、基本的に人々が食用にしていたものだと考えられます。
しかし、その場合、卵殻の痕跡は孵化のずっと前の状態となっているはずです。
なぜ、今回遺跡から見つかったヒクイドリの卵の殻は、多くが孵化直前の状態だったのでしょうか?
ここから予想されるのは、当時のニューギニア人が、ヒクイドリの生卵を食べず、孵化直前のヒナを加熱して食べていた可能性です。
孵化直前のヒナを食べるというのは、馴染みのない地域の人にとっては少しショッキングな食べ方ですが、東南アジアの広い地域で「バロット」という名で親しまれています。
しかし、卵殻の焼け具合を調べたところ、その多くに加熱の痕跡がない事がわかりました。
これは当時の人々が、ヒクイドリをそのまま孵化させていた可能性が高いと考えられます。
そこで、研究チームが考えたもう一つの可能性が、ヒクイドリの飼育です。
Credit: Andy Mack(phys) – Late Pleistocene humans may have hatched and raised cassowary chicks(2021)卵を孵化させるためには、ただ内容物を食べるためだけに卵を収穫していては実現できません。
これはこの時代の人々が、意図的に孵化させることを目的として卵を集めていた可能性があることを示唆しているのです。
これは驚くべき事実です。
ダグラス氏は「この結果は、人類による鳥類の家畜化を示す世界最古の例であり、ニワトリやガチョウの家畜化に数千年以上も先行していると考えられる」と述べています。
ただし、当時の飼育環境や技術を踏まえると、ヒクイドリを集団で家畜化するのは難しく、危険もかなり多かったはずです。
それでもヒクイドリを飼育していたとすれば、どんなメリットがあったのでしょうか。
もしかしたら、番犬ならぬ番鳥として居住地の見張りをさせていたのかもしれません。
参考文献
Late Pleistocene humans may have hatched and raised cassowary chicks
元論文
Late Pleistocene/Early Holocene sites in the montane forests of New Guinea yield early record of cassowary hunting and egg harvesting
提供元・ナゾロジー
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