「ミレニアル世代はお金より名声を重視する」ことを示す複数の調査結果が報告される中、 新たな調査では9人に1人が「結婚するより有名人になりたい」、12人に1人が「有名になるためなら家族も捨てる」、14人に1人が「妻・夫や恋人と別れる」と回答した。

SNSを通して誰でも簡単に自分を世界中に売り込める時代ゆえに、名声への願望が強まっているのだろうか。

年収1000万ドル以上など、若くして芸能人顔負けの金額を稼ぎ出している「SNSスター」も少なくはない。その一方で「売り込み」に投資しすぎ、負債を抱えるミレニアル世代も増加傾向にあるという。

フォーブス誌が発表した「2017年YouTuber所得ランキング」とともに、「有名になるためならばどんな苦労も犠牲もいとわない」という新たな世代の風潮が、どこに起因するものなのかを探ってみよう。

2017年YouTuber 所得ランキング

10位 リリー・シン(カナダ) 1005万ドル
8位 ライアン(非公表) 1100万ドル
8位 スモッシュ(米国)  1100万ドル
7位 ジェイク・ポール(米国) 1150万ドル
6位 フェリックス・シェルバーグ 通称ピューディパイ(スウェーデン) 1200万ドル
5位 ローガン・ポール(米国) 1250万ドル
4位 マーク・フィシュバフ 通称マーク・プライヤー(米国) 1250万ドル
3位 デュードパーフェクト(米国) 1400万ドル
2位 エヴァン・ヤング(米国) 1550万ドル
1位 ダニエル・ミドルトン(英国) 1650万ドル

「自分にもできるかも知れない」が「有名になりたい願望」を過熱させる?

1位のミドルトン氏を筆頭に、高所得YouTuberは年間1000万ドル以上を稼ぎ出している。これらのYouTuberは、ひたすら様々なおもちゃを紹介する最年少6歳のライアン君を含め、せいぜい20代後半だろうか。いずれも非常に若いのが特徴だ。

発信している情報は、主にゲームやおもちゃのレビューや、動画ブログである。特にセレブな雰囲気を醸し出しているわけでもなく、むしろごく普通の身近な存在感が人気の秘密のようだ。実際、米SNSサイト「Clapit」が米国のミレニアル世代2450人を対象に実施した調査 では、8人に1人が「映画やTVスターよりSNSに親しみを感じる」と答えている。

自分と同じ世界に属する(あるいはそうした印象を受ける)若者が、身近なネタをインターネットで発信して成功を収めている―そんな姿を目の当たりにし、「自分にもできるかもしれない」と思わせるところが、若者層の「有名になりたい願望」に拍車をかけているのだろう。この点に関しては、Clapitの共同設立者メアリー・ジェーン・ブルセコ氏も同様の見解を示している。

結婚・家庭・キャリア・人間関係よりも名声が大事?

もう少し調査結果を詳しく見てみよう。20%のミレニアル世代が密かに「有名になりたい願望」を抱いており、そのためには「かなりの苦労をいとわない」と肝を据えている。ここでいう「かなりの苦労」には、家族やパートナーとの関係、結婚、学歴や一般的なキャリアも含まれる。

「大学に行くより有名になる方がいい(10%)」「弁護士になるより有名になる方がいい(30%)」「医者になるより有名になる方がいい(23%)」という回答結果から、これらの若者にとっては堅実な職業よりも、インターネットの世界で華やかなスポットライトを浴びる方が魅力的であることが分かる。

さらに、有名になれるのなら「結婚しなくていい(11.9%)」「子どもを持たなくていい(16.6%)」だけではなく、「家族と縁を切ってもいい(8.3%)」「パートナーと別離してもいい(7.1%)」などと、将来の比重をSNSでの成功に置いている。

また25%が「真の将来のスターの卵は、ソーシャル・メディア・プラットフォームから生まれる」と確信している。

「グラマラスな生活発信」で借金1万ドル

SNSスター予備軍が増えている陰で、「SNS負債」も増加傾向にある。

ニューヨーク・ポスト紙で自らの体験談を明かしたリゼット・カルヴェイロ氏は、「Instagramスター」を目指して1万ドルの借金を抱えた26歳の女性だ。2013年にインターンシップのためにマイアミからニューヨークに引っ越し、すっかり大都会の生活に魅了されたという。

カルヴェイロ氏は「ニューヨークで暮らすミレニアル女性」というテーマで、Instagramを通してファッションや生活スタイルを世界中に発信することを思いついた。その結果、1.2万人のフォロワーがついたものの、「大都会のグラマラスな生活」を発信し続けるだけの経済力が欠けていた。

Instagramスターの条件は、「最新のファッションやメイク、休暇、レストランなど、皆の憧れをいかに多く見せびらかせるか」である。ファッション情報サイト「Fashionista」によると、「年間3.1万ドルの投資」が必須だ。

カルヴェイロ氏はインターンシップ終了後、マイアミの両親の家に戻ってからも、給与のすべてを高級ブランドの洋服や外食に費やしていたという。「偽りの生活を送っていた」と当時を振り返る一方で、「Instagramで自分の生活をひけらかす人のうちどれぐらいが、本当にそれだけの経済力があるのか心配になる」「もっとほかのことにお金を投資できたと後悔している」と語った(ニューヨーク・ポスト紙2018年3月3日付記事)。 

最も精神的にネガティブな影響をおよぼすSNSはInstagram?

カルヴェイロ氏の例は氷山の一角だ。英国王室協会公衆衛生庁はSNSの中毒性を挙げ、特に若い世代の精神状態へのネガティブな影響を懸念する報告書を発表した。調査ではSNSと不安・そう鬱・睡眠不足との関連性が挙げられており、Instagramが最も悪影響をおよぼすSNSだとされている。

SNS上での成功に憧れるすべてのミレニアル世代が、精神的あるいは経済的に不健全ということはないはずだが、ブルセコ氏はこうした名声への過度の憧れが「過去の世代には見られなかった」ものと指摘している。

文・アレン・琴子(英国在住フリーランスライター)

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