最近は環境的・倫理的動機から、肉食を完全に放棄するよう呼びかける人たちをよく目にするようになりました。

しかし、人間の体は基本的に肉も野菜もバランス良く摂取することを前提に作られています。

特定の食事を故意にやめた場合、健康に対して何らかの影響が出る可能性もあるでしょう。

米サザン・インディアナ大学(USI)による最近の分析では、肉を含まない食事は雑食性の食事よりも高いうつ病や不安レベルと関連していることが示されました。

これは17万人以上の参加者を含む20の研究データから抽出された結果を評価した、最新のメタアナリシス研究です。

しかしこの結果は、肉を食べれば精神状態が改善する、と言っているわけではないようです。

研究の詳細は、2021年10月6日付で科学雑誌『CriticalReviews in Food Science and Nutrition』に掲載されています。

目次

  1. 食事とメンタルヘルスの関係
  2. メンタルヘルスが低下したから肉を食べるのをやめた?

食事とメンタルヘルスの関係

心の病が「肉食を放棄させている」可能性が高い
(画像=食事制限は基本的に人を不幸にする / Credit:canva、『ナゾロジー』より 引用)

「いつもダイエットを実行している人で、幸せそうな人を見たことがありますか?」

今回の研究の筆頭著者であるサザン・インディアナ大学の心理学者ウルスカ・ドベルスク(Urska Dobersek)氏はそのように述べ、食事の制限と精神状態の関連性を指摘しています。

世界保健機関は、過去20年間で精神疾患を訴える人が大幅に増加していると報告しており、世界では約3億人がうつ病に苦しみ、約2億6000万人が不安を抱えて生活していると推定します。

ドベルスク氏は、こうした精神障害の増加について、大規模調査やランダム化比較試験など、20の既存の研究報告からデータを抽出し、うつ病や不安レベルと食事の関係について、メタアナリシスという分析研究を行いました。

メタアナリシス(meta-analysis)またメタ分析というのは、複数の研究の結果を統合し、より正確な分析や傾向を見つけ出す統計解析の研究のことをいいます。

分析に含まれた研究は、2001年から2020年半ばまでに実施されたもので、4大陸の計17万2000人の参加者を含んでいます。

この対象者のうち、約15万8000人が肉も食べる人たちで、約1万3000人は肉を食べない人たちでした。

分析されたうち、2つを除いてすべての研究が、参加者に肉を食べるかどうかをアンケート調査していて、同時に日常感じている不安レベルやうつ病の経験についてもアンケートを取っていました。

この大規模なメタアナリシスの結果は、「肉食の放棄は、明らかにメンタルヘルスの低下と関連している」というものでした。

これは性別に関係なく見られる傾向で、肉を食べることをやめた人たちは、うつ病、不安、自傷行為のリスクが高まっていることが示唆されたのです。

似たような分析は、ドイツの研究チームからも2021年8月に報告されていて、そこでは菜食主義者は明らかに肉を食べている人よりも高いうつ病スコアと関連していると示唆されています。

肉を食べないということは、精神的な健康に影響するのでしょうか?

また、肉を食べることで、うつ病などの予防に役立てることができるのでしょうか?

しかし、ドベルスク氏はこの結果に対して、肉を食べないことが精神疾患につながるとは言えないと注意を述べています。

それは一体どういう意味なのでしょうか?

メンタルヘルスが低下したから肉を食べるのをやめた?

心の病が「肉食を放棄させている」可能性が高い
(画像=不安レベルやうつ病の増加は食事との関連が指摘されている / Credit:canva、『ナゾロジー』より 引用)

肉食とメンタルヘルスに相関関係があることは、科学的に明らかであるようです。

しかし、こうしたアンケート主体の調査から見つかる相関関係では、明確にできない部分が存在します。

それは「肉食をやめたからメンタルヘルスが低下したのか?」、あるいは「メンタルヘルスが低下したから肉食をやめたのか?」ということです。

いわゆる、卵が先か鶏が先かという問題です。

調査から分かるのは、肉食をやめた人たちの明らかなメンタルヘルスの低下傾向だけなのです。

しかし、ドベルスク氏はおそらく、菜食主義の人は精神疾患に陥ったために、肉食をやめた可能性が高いだろうと考えています。

このことは2012年に報告されている別の研究からも示されており、年齢を追って調査を行うと、菜食主義への切り替えに先行してうつ病が発症している傾向が見られています。

「精神疾患に苦しんでいる人は、しばしば自己治療の一環として、食生活を変えることがあります。

そして、多くの人が自然と人間社会の内包する残酷さへの倫理的反応としてビーガニズムを選択しているようです」

ドベルスク氏はそのように説明しています。

心の病が「肉食を放棄させている」可能性が高い
(画像=肉を食べるのをやめて、野菜をたくさん摂れば精神状態が良くなると考える人も多いが、そこに科学的な根拠はない / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

また、高い不安レベルを抱えていたり、うつ病を持つ人は、気候変動についても強く不安をいだいており、個人が炭素排出量を減らす方法として、肉食をやめるという、食事療法を選択する可能性が高くなるのだといいます。

これは世界的に、畜産業が炭素年間排出量の約15%を占めているという情報からたどり着いている決断でしょう。

世界的な傾向として、WHOの報告する精神障害の増加と並行して、菜食主義(ベジタリアン)や完全菜食主義(ビーガン)を掲げる人たちは一般的になりつつあります。

これは、うつ病などの精神疾患の発病に伴って、食生活を変える(菜食主義へ切り替える)人たちが多いために起きている可能性が高いかもしれません。

もちろん、肉の取り過ぎも健康にいいとは言えませんが、肉を全く摂らない生活が、健康にいいはずはなく、合理的な判断とは言い難い部分があります。

今回の研究結果が発表された当初は、肉を食べればメンタルヘルスが向上すると考える人たちもいたようですが、どうやらそれは誤りのようです。

メンタルヘルスの低下が、人を肉食から遠ざける傾向を持っている可能性は高いでしょう。

参考文献
Meat consumption is associated with better mental health, meta-analysis finds
People who eat meat report lower levels of depression and anxiety than vegans do, a recent analysis suggests
元論文
Meat and mental health: A meta-analysis of meat consumption, depression, and anxiety

提供元・ナゾロジー

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