現在、世界中の約6%が2型糖尿病で苦しんでおり、食事療法や運動療法、またインスリン注射で生活を大きく調整しています。

彼らの多くが、「糖尿病が発症する前に、その傾向を知りたかった」と考えていることでしょう。

そして最近、スウェーデン・ルンド大学(Lund University)臨床科学部に所属するヤン・デ・マリニス氏ら研究チームは、2型糖尿病の兆候が表れるタンパク質を発見しました。

これにより、発症のリスクを19年前から血液検査で知ることができます。

研究の詳細は、11月10日付の科学誌『Nature Communications』に掲載されました。

目次

  1. 2型糖尿病の発症は予測できるのか?
  2. 特殊なタンパク質が2型糖尿病のバイオマーカーだと判明

2型糖尿病の発症は予測できるのか?

2型糖尿病発症の兆候を19年前から予想できる血液検査が登場
(画像=糖尿病を発症すると、インスリン注射が必要になる場合も / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

糖尿病患者の95%は「2型糖尿病」に分類されます。

これはいわゆる「一般的な糖尿病」のことであり、遺伝的な要因に加え、運動不足や食べすぎなどの不健康な生活習慣が重なり発症すると言われています。

だからこそ、実際に発症する前に体重・食事・運動を適切に管理することで、発症リスクを大きく下げることが可能です。

しかし2型糖尿病の兆候を示す印(バイオマーカー)は見つかっていなかったため、「つい油断してしまい、気づいたら糖尿病になっていた」という人が多いでしょう。

ところが最近、研究チームの調査によって、2型糖尿病の発症に関わるバイオマーカーを特定することに成功しました。

スウェーデンとフィンランドの2カ所で集めた5318人のデータを最大19年にわたって追跡調査した結果、「フォリスタチン(英訳:Follistatin)」というタンパク質が2型糖尿病のバイオマーカーになると分かったのです。

特殊なタンパク質が2型糖尿病のバイオマーカーだと判明

フォリスタチンとは、主に肝臓から分泌されるタンパク質であり、代謝の調整に関わっています。

そして血液中に含まれるフォリスタチンの濃度(血中フォリスタチン濃度)が高いと、2型糖尿病を発症しやすいと判明しました。

しかもその傾向は、実際に糖尿病を発症する19年前から表れていたとのこと。

つまり血液検査で血中フォリスタチン濃度を測るなら、将来の糖尿病リスクを判断できるのです。

2型糖尿病発症の兆候を19年前から予想できる血液検査が登場
(画像=フォルスタチン / Credit:Jawahar Swaminathan(Wikipedia)_Follistatin、『ナゾロジー』より 引用)

さらに今回の研究では、血中フォリスタチン濃度がどのように糖尿病の発症リスク上昇に関わっているか調査しました。

その結果、フォリスタチンが脂肪細胞の分解を促進し、肝臓への脂質蓄積を増加させると判明。

肝臓に脂肪が蓄積するとインスリン抵抗性が生じるため、2型糖尿病を発症するリスクが高まるのです。

マリニス氏は次のように述べています。

「今回の研究は、フォリスタチンが2型糖尿病の重要なバイオマーカーになる可能性を示しています。

さらに糖尿病のメカニズム解明に一歩近づくこともできました」

将来的には、血液検査で「自分は糖尿病リスクが高い」と事前に判断できるようになるでしょう。

あらかじめリスクが高いと分かっているなら予防に積極的に取り組めるため、将来の発症をかなり抑えられるはずです。

今後チームは臨床試験を実施するとともに、血中フォルスタリン濃度を利用したAI診断ツールを開発する予定です。


参考文献

Biomarker Discovered That Predicts Type 2 Diabetes Many Years Before Diagnosis

元論文

Elevated circulating follistatin associates with an increased risk of type 2 diabetes


提供元・ナゾロジー

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