「2017年、世界で生みだされた資産の82%を最も裕福な1%の層が手にいれた」という報告書を、英国の非営利組織オックスファムが発表した。2016~17年の1年間で2日に一人のビリオネア(資産額10億ドル以上のお金持ち)が生まれており、2010年以降、この層の資産が毎年平均13%増えているのに対し、一般労働者の賃金は平均2%しか増えていないという。ビリオネアの資産は過去1年で7620億ドル増えた。

しかしこの分析に対して英BBC放送のジャーナリストなどが批判的な見方を表明、「オックスファムのデータにはかたよりがある」といった声もある。

オックスファムCEO 「格差が許容範囲を超えている」

オックスファムが世界で広がる格差の実態について調査した報告書「資産ではなく労働に報酬を」は、世界経済フォーラムが1月23~25日にわたりスイスで開催する「ダボス会議」に先駆けて発表されたもの。クレディスイスの「グローバル・ウェルス・レポート2017」 や、世界10カ国の世論調査会社などを通して収集したデータや回答に基づいて作成されている。

報告書によると、2017年の世界のビリオネア数は2043人。2016~17年の1年間で2日に一人のビリオネアが生まれており、これまでにない水準で格差が加速している。一般労働者の年間賃金成長率は、ビリオネア層の年間資産成長率のほぼ7分の1だ。

オックスファムはビリオネアが所有する資産の3分の2は「遺産相続や事業などの独占権、身分や友人関係による優遇の産物」とし、実際に労働している人々には公平な賃金が支払われず、裕福な層がさほど苦労せずに巨額の資産をさらに増やしている不公平さに焦点を当てている。

オックスファムのマーク・ゴールディングCEOは、「格差が許容範囲を超えている」とコメント。格差問題が重要課題として議論されているものの、「難しい議題は最初の抵抗でそのまま立ち消えてしまう」と、現実的には問題の解決の糸口にもたどり着いていない現状を指摘している。

オックスファムのデータにはかたよりがある? シンクタンクが指摘

しかしオックスファムのデータや裕福な層に対する非難が、「偏り過ぎている」との意見もある。

データでは個人の所得ではなく資産(土地・不動産など)が基準となるため、例えば将来高所得層となる可能性が高い学生でも高額の学資ローンをかかえていれば、「貧困層」にカテゴライズされる。

もうひとつ例を挙げると、オックスファムは昨年発表した報告書(2016年の調査)で「世界で最も裕福な8人の資産総額は、世界の最も貧しい層の半分(36億人分)の資産総額に匹敵する」としていたが、最新版ではこの数字を61人に訂正。2017年は42人と推測している。

英BBC放送のジャーナリスト、アンソニー・ルーベン氏はこの点を例に挙げ、「貧富の格差を正確に測定することは困難を極める」と指摘している。非常に裕福な層は本当の資産を公にしない傾向が強く、「最も資産の少ない層」だからといって必ずしもお金がないとは断言できない。多額の学資ローンや住宅ローンをかかえた教授や高所得者もいる。

高所得層への増額を提案する声も聞かれるが、これらの層がすでに納税に大きく貢献している事実は見落とされがちだ。ロンドンを拠点とするシンクタンクIEA(経済問題研究所)のマーク・リトルウッド局長は、「裕福な層の資産を増税によって減らしても、結局はだれも得をしない」と主張。「オックスファムは近年、貧しい層を救うことよりも裕福な層を詰問することにこだわり過ぎている」とコメントしている。

同じくロンドンのシンクタンク、アダム・スミス・インスティテュートの調査部門責任者サム・ドミトル氏も、「過去何十年間にわたり、世界における貧富の差は著しく縮まっている」とし、「チャリティーによる所得格差の統計はいつも社会に誤解をあたえる」と同様の見解を示している。

オックスファムはこうした批判に対し、「例え純負債を調査対象から外したとしても、最も裕福な層の総資産額は貧困層1280億人分に匹敵する」と反論している。

ビリオネアの資産に1.5%課税すれば、地球上すべての子どもが学校にいける?

どちらの見解を支持する・しない関係なく、貧富の格差が大きく開いていることは事実である。世界の資産の大半をにぎっているのが8人であろうと100人であろうと、その事実は揺るがない。オックスファムがデボスを通して社会に伝えようとしているのは、そこではないか―とルーベン氏も指摘している。

実際、多くの人々が所得格差に不満をいだいているのは明白だ。オックスファムの調査に協力した10カ国7万人のうち72%が「格差対策の速やかな導入」を求めている。

オックスファムは対応策として「株主への配当、エクゼクティブへの報酬に上限を設け、全労働者に対する最低賃金を生計を立てていける水準に引き上げる」「女性労働者の権利を保護する施策を導入し、男女の所得格差をなくす」「裕福な層から相当の税金を徴収するための施策を導入する」「累進課税制度の導入および租税回避対策を強化する」といった直接的な格差緩和案を挙げている。

また、「保険医療や教育など、基本的な社会サービスのための財政予算確保」によって、子どもから大人までが安心して暮らせる社会づくりを提案している。オックスファムの試算では、ビリオネアの資産に1.5%の「国際税」を課税するだけで、世界中ですべての子どもが教育を受けられるようになるという。

ビリオネアの増加を経済の繁栄と受け取るか、破たんと受け取るかは、個人の価値観や生活環境によって異なるだろう。オックスファムは「私たちの洋服や携帯電話、食べ物を作る人々が、企業や裕福な投資家の利益増大のために搾取されている」と、繰り返し社会に呼びかけている。

文・アレン・琴子(英国在住フリーランスライター)
 

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