ASMRは世界中のYouTubeで3番目に人気のある検索用語であり、聴覚や視覚への刺激によって生じる特殊な感覚を指します。
しかし、これまでASMRに対する科学的な根拠はあまり提出されてきませんでした。
そんな中、イギリス、エセックス大学の臨床心理学者また神経科学者であるジュリア・ポエリオ准教は、9月15日『THE CONVERSATION』誌に、ASMR時の脳の働きについて解説しました。
複数の実験結果によると、ASMRには脳の共感性や、感情的な反応の抑制能力低下が関係しているとのこと。
ASMRとは?どうやって起こる?
ASMRは「自律感覚絶頂反応」を意味する英語「Autonomous Sensory Meridian Response」から来ています。
このASMRはささやき声や繊細な手の動き、軽いタッチなど、特定の刺激を聞いたり見たりしたときに一部の人だけが経験する複雑な感情状態を指します。
そしてこれには、頭頂部から始まり首や手足に広がるピリピリとした感覚や多幸感、リラクゼーションが含まれるとされています。この状態を「脳のうずき」と表現することもあるのだとか。
ですからASMRとは単純に「心地よい音だ」とか「落ち着く」と感じるだけものではなく、「没入感のある特殊なトランス状態」を経験することなのです。
さらに経験者によると、ASMRには2つの特徴があります。
1つ目は、ASMRは一般的に幼少期に発現するということ。
2つ目は、人々にはそれぞれの好みがありますが、ASMRのきっかけには一貫性があるということです。一般的に、ソフトタッチやささやき声、繊細な手の動き、歯切れの良い音などが挙げられます。
そしてこの特殊な状態「ASMR」を引き出すために、YouTubeなどの動画共有サイトには多くのASMR動画が投稿されるようになりました。
ただしASMR経験の有無やその程度には個人差があります。またASMRに関する学術的な論文も一握りしか存在しないため、この現象に対する科学的な根拠や深い理解は得られていないままです。
そのためポエリオ氏らはASMRの研究チームを立ち上げました。そして現時点で科学的に判明している点を解説しています。
ASMR時に脳では何が起こっているのか?ASMR経験者の特性とは?
ASMRについてはこれまでに脳画像を用いた3つの研究が行われています。
1つ目の研究では、ASMRを体験した10人の参加者にMRIマシン内でASMR動画を見てもらいました。
その結果、ASMRによる「うずき」が、感情・共感・親和行動を司る脳領域の活性化と関連していると判明。サンプルサイズが小さいものの、ASMRは人の思いやりやグループ行動に良い影響を与える可能性があります。
これはASMR経験者が「他の人とのつながりをより感じられるようになる」という研究を裏付けるものとなっています。
また他の2つの研究では「感情的な反応を抑制する能力が低下しているためASMRを経験する」可能性が示唆されました。そして、そのような人は多くのブレンドされた神経ネットワークを持っているとのこと。
この特性は悪いことのように思えますが、必ずしもそうではありません。
人の外側と内側の繋がりを抑制できないということは、好きな音楽で鳥肌がたったり、芸術に反応して畏敬の念のような複雑な感情を経験したりと、より強烈かつ複雑でポジティブな感情体験ができることになります。
もちろんこの特徴が不快感を与えることもあるでしょう。実際ASMR経験者は、音楽やその他の体験によって悪寒や複雑な悪感情を抱く割合が大きいようです。
ASMR科学は治療に活用できる?
研究者たちはASMR経験者の単純な神経の違いだけでなく、人としての全体的な違いにも目を向けています。
例えば、ASMR経験者はビッグファイブと呼ばれる性格診断において「経験への開放性(英: openness to experience)」のスコアが高くなります。知的好奇心が強く、想像力に富み、芸術や美に対する評価が高いのです。
さらに他者への思いやりや関心、フィクションに没頭する能力など、共感性が高いとされています。
そしてこのようなASMR経験者はASMR動画を見た時に心拍数が大幅に減少します。ストレス軽減の効果が確認されているのです。
そのためASMRが1つの治療形態として活用できるのではないかと考えられています。しかしASMRに関しては判明していないことも多く、現段階では明言できません。
研究チームは今後、ASMRの治療形態を検討していくとともに、誰もがASMRを経験する可能性があるか調査していく予定です。
提供元・ナゾロジー
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