アンモナイトはすでに絶滅している種ですが、多くの人がすぐ頭に思い浮かべられるほど有名な巻き貝です。

そのアンモナイトの一種、白亜紀後期に登場した「パラプゾシア(Parapuzosia)」は、発見された化石の直径が2m近くもある非常に巨大化した種です。

これまでパラプゾシアが、どのように巨大な進化を遂げたのかはわかっていませんでしたが、ドイツのハイデルベルク大学などの国際研究チームは、さまざまなサイズの154のアンモナイト化石から、進化の様子を明らかにしています。

これまでパラプゾシアの巨大化の原因は気候変動だと考えられてきました。

しかし今回の研究は、巨大化の時期が当時の気候変動とうまく一致していない可能性を示しています。では、なにがパラプゾシアを巨大化させたのでしょうか?

研究の詳細は、11月10日付で、科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されています。

目次

  1. 世界最大のアンモナイト
  2. 巨大化した進化の流れを発見!

世界最大のアンモナイト

人間サイズのアンモナイト「パラプゾシア」が巨大進化した理由とは?
(画像=アンモナイトは現代のオウムガイの仲間で広く世界中の海に生息していた / Credit:oriasok foldjen、『ナゾロジー』より引用)

アンモナイトは、現在のオウムガイの仲間とされる巨大な殻を持った軟体動物です。

ヤドカリのように貝殻に住み着いているわけではなく、カタツムリのように殻自体も自分の体の一部です。

アンモナイトの殻の成長は黄金率に従っている、なんて話も有名です。

すでに絶滅した生物でありながら、誰もが知っている知名度からも分かる通り、アンモナイトはかつて世界中の海に存在したほど、非常に成功した生物の1つでした。

そんなアンモナイトの中でも、異彩を放つ特殊な種類がいます。

それが白亜紀後期に登場した、恐ろしく巨大化した種類の「パラプゾシア(Parapuzosia)」です。

最初の化石は1895年に、ドイツのゼッペンラーデで発見され古生物学者ヘルマン・ランドイス(Hermann Landois)によって「パラプゾシア・セッペラデンシス(Parapuzosia seppenradensis)」と名付けられました。

このとき見つかった化石標本は、殻が完全なものではありませんでしたが直径は1.8mに達していました。

そのため、学者たちはもしパラプゾシアが完全な状態であったならその大きさは直径2.55m~3.5mに達する可能性があると推定したのです。

人間サイズのアンモナイト「パラプゾシア」が巨大進化した理由とは?
(画像=パラプゾシアと人間のサイズ比較 / Credit:oriasok foldjen、『ナゾロジー』より引用)

重量は全体で1455kgあったと推定され、これは史上もっとも大きくて重い軟体動物です。

ただ、これまでこのパラプゾシアがいつ頃から巨大化し始めたのか? なぜそんなに巨大化したのか? については標本の少なさもあってよくわかっていませんでした。

なぜ、彼らはそんにも巨大化したのでしょうか?

巨大化した進化の流れを発見!

今回の研究では、このもっとも大きいパラプゾシアの1種類とされる「P.seppenradensis」が、いつどのように巨大化したかについて調査しました。

チームは、歴史上の化石と、新たに発見された化石を含めた、計154のアンモナイト化石を分析しました。

そして約8000万年前に大西洋の両側(イギリスとメキシコ)で、小さな関連種(Parapuzosia leptophylla)から進化した可能性があると発見したのです。

白亜紀後期にかけては、大きな気候変動があり海水の温度などにも変化がありました。

クジラの巨大化などには、水温の変化が関連していることがわかっていて、アンモナイトの巨大化も、気候変動が関係すると考えられていました。

しかし、今回の発見では、アンモナイトが巨大化していた時期と気候変動の時期は全てが一致しておらず、巨大化を説明するには不十分であることがわかりました。

では、なぜパラプゾシアという巨大な種類が登場してきたのでしょうか?

ここで、研究者たちはある生物が、パラプゾシアと巨大化と密接に関連していたことに着目します。

そのある生物とは、白亜紀後期の海を支配していた、獰猛な捕食者モササウルスです。

アンモナイトは、イカやタコと同じ頭足類であり、素早く水中を泳ぎ回る肉食動物でした。

そんなアンモナイトにとっての天敵が、モササウルスだったのです。

人間サイズのアンモナイト「パラプゾシア」が巨大進化した理由とは?
(画像=モササウルスはアンモナイトに取っての危険な捕食者だった / Credit:earth archives,Shelled krakens of the Mesozoic deep/JULIO LACERDA、『ナゾロジー』より引用)

このモササウルスは、白亜紀後期にかけてどんどん巨大化しており、最大18mにまで達していたことがわかっています。

そして、その巨大化の傾向は、アンモナイトの巨大化傾向と密接に関連しているように見えたのです。

これは危険な捕食者の巨大化が、アンモナイトに対しての淘汰圧になったのではないか、と考えられます。

淘汰圧は進化にとって重要な要因です。

殻が巨大だったアンモナイトは、モササウルスの口に入らないために難を逃れたかもしれません。

そして、アンモナイトは危険な捕食者の巨大化に伴って、一緒にどんどん巨大化していった可能性があるのです。

ただ、両者の成長と進化を関連付ける明確な証拠は見つかっていないため、これはあくまで研究者の推測に過ぎません。

またしばらくすると、パラプゾシアはモササウルスの巨大かとは関係なく、サイズが縮小し始めたこともわかっています。

この事実を説明する方法は、現在見つかっていません。

ただ、研究者たちは、「現在この時期のアンモナイトの巨大化と相関する地球環境の傾向は確認されていない」と述べており、モササウルスとの関係は、現在考えられるもっとも最適な巨大進化の理由である可能性は高いかもしれません。

参考文献
We May Finally Understand Why These Gargantuan Mollusks Got So Huge
Human-size ammonites swam the Atlantic Ocean 80 million years ago
Shelled krakens of the Mesozoic deep
Parapuzosia
元論文
Ontogeny, evolution and palaeogeographic distribution of the world’s largest ammonite Parapuzosia (P.) seppenradensis (Landois, 1895)

提供元・ナゾロジー

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