Point
■今年2019年はメンデレーエフが周期律を発見してから150周年にあたる
■そのため、UNESCOは今年を国際周期表年と宣言し、各国で周期律表に関係したイベントを開催している
■ここで紹介するのは二人のアーティストによる化学元素アートで、メルボルン郊外の「Quantum Victoria」に展示される予定だという
化学の教科書お馴染みの元素周期律表。これを作り出したのは、元素を原子量の順番に並べると一定の周期に従って似たような性質を示すということに気付いた、ロシアのメンデレーエフです。
この周期的に現れる元素の性質は、後に量子力学によって説明されることになりますが、メンデレーエフはそれよりずっと前の1869年に周期律表を作り、以後その内容は書き加えられることはあっても、書き換えられることはありませんでした。
メンデレーエフは「夢の中で周期律を発見した」と言ったそうですが、夢に見るくらい元素の性質に心を奪われ研究に打ち込んでいたのでしょう。
そんな偉大な発見から、今年は150周年になります。これを記念して、世界ではあちこちで周期律表にまつわる展示イベントが行われています。
今回紹介するのは、オーストラリアの周期律表イベントで展示される化学アートです。「元素記号は覚えたけどいまいちピンとこない」という人にも役に立つかもしれません。
これはアーティストDamon Kowarsky氏とHyunju Kim氏が共同で制作した作品です。
art.damon
原子番号2 ヘリウム
一般的には風船に使用され、空気より軽くて密度が低い気体がヘリウムです。この特性のために、このヘリウムガスを吸い込んで声帯内に満たすと、通る声(振動)が空気中のときより早く伝わるようになり声が高くなるという、ちょっと変わった効果があります。
化学者にとってのヘリウムは、冷却に有用な材料です。これは液体状態で-269℃まで冷却でき、化学的に安定した希ガスなので、他の元素とまったく化学反応を起こさないためです。
アーティストにとっては、少々難しい元素になります。なぜなら視覚的に表現する今回の企画のスタートとしては、表現する対象を見つけるのが困難な元素だからです。ヘリウム単体で直接成り立つ物質は、太陽の核くらいなので、ここでは核融合の様子とともに、それが描かれています。
原子番号7 窒素
窒素は、タンパク質や核酸(DNA)に多く見られる生命にとって重要な元素です。また、地球大気の約78%は窒素で形成されています。この他、肥料としても有用な成分です。
化学的には、大気中の窒素は三重結合という形で分子になっており、2つの原子の結合としては2番目に高い強度を持っています。そのため、分解する際に多量のエネルギーを放出します。これは爆弾に利用されます。
アーティストのデザインでは、生命にとって不可欠な窒素化合物として植物と稲妻が描かれています。なぜ稲妻? と思うかもしれませんが、大気中の窒素を肥料として植物が取り入れる場合、稲妻が重要な役割を果たすからです。
稲妻の放電は、大気中の窒素を窒素酸化物へと変え、それが雨とともに大地に降り注ぐことで植物に栄養を運びます。古来より稲妻の多かった年は豊作になると言われていましたが、それはこうした作用によるものです。
もちろん、日本で雷のことを「稲」の「妻」と書くのも、昔の人達が経験的にこの作用を理解していたためと考えられます。
原子番号20 カルシウム
カルシウムは、石灰岩、チョーク、サンゴ、そして骨や歯に多く見られる元素です。
化学的には、塩化カルシウムとなることで水分を除去する乾燥剤として用いられる存在です。雪国では路面の凍結を防止するために撒かれ、自動車の底を錆びだらけにします。
アーティストのデザインは、カルシウムで構成される私達に最も身近な代表的物質、骨を描いています。
原子番号26 鉄
鉄は非常に多くの場所で見る機会がある、一般的な金属で地球の質量の35%を占めています。血液中にも含まれています。
化学者にとっての鉄は、重要な化学反応を見るための触媒として利用されることが多いです。例えばアンモニアの生成には、窒素と水素の他に、鉄の触媒が必要となります。
アーティストのデザインは赤血球と地球の断面を利用した鉄の同位体の分布円グラフになっています。鉄もまたありふれているがゆえに、これという代表的なデザインは難しかったのかもしれません。
原子番号29 銅
銅は日本では10円玉の材料として一般的な金属です。
化学的には非常に高い熱伝導率と電気伝導率を持っている金属です。
アーティストのデザインは、ケーブルとしての利用をピックアップして描いています。また左に描かれたオレンジの模様は、キプロス島を表現しています。キプロス島は、銅が最初に発見された採掘地です。
その他の元素
紹介できなかったその他の元素も、サイトへ行くとすべて閲覧することが可能です。
並べて閲覧すると、私達の身の回りにある、1つの元素を主要な構成材料にしているものはデザインがしやすかったようですが、そうでない元素はアーティストにとって表現が困難だったことが伺えます。
特に原子番号の高い元素の中には、自然には存在できない非常に寿命の短い元素などもあり、発見に貢献した自分の自画像でお茶を濁していたります。
しかし、やはりグラフィカルなイメージで見ると、普段は気に留めていない元素の利用先が一目瞭然で楽しいものです。
2019年は、メンデレーフが周期律を発見してから150周年に当たる年です。日本でもこの国際周期表年について、特別展が企画されているので、この機会に、元素をテーマにした作品を楽しんでみるのもいいかもしれません。
reference:bowdoin,IYPT2019/written by KAIN
提供元・ナゾロジー
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