場違いも甚だしいですが、海や川に不法投棄されたタイヤを見かけることがあるでしょう。

廃タイヤは、悪臭や蚊の発生源、水質・土壌の汚染源となっており、専門家も大いに懸念しています。

そして、弘前大学・農学生命科学部の研究チームはこのほど、海に捨てられたタイヤが一種のトラップとなり、ヤドカリを捕殺していることを明らかにしました。

ヤドカリは、海底の死骸や有機物を食べてくれる「海の掃除屋」としての役割があります。

廃タイヤによる個体数の減少で、生態系に悪影響が出るかもしれません。

研究は、10月27日付けで学術誌『Royal Society Open Science』に掲載されています。

目次

  1. 年間1300匹近くのヤドカリが「捕殺」されていた

年間1300匹近くのヤドカリが「捕殺」されていた

海や川に投棄、あるいは放出された漁具は、知らぬ間に水生生物に危害を与えています。

これを「ゴーストフィッシング(幽霊漁業)」と呼びます。

研究主任の曽我部篤(そがべ・あつし)氏は、沿岸部に捨てられた廃タイヤの内側に、大量の巻貝やヤドカリがいるのを見て、まさに「ゴーストフィッシング」が起きているのではないかと考えました。

つまり、タイヤの内側に入ったはいいものの、ネズミ返しのような構造のせいで脱出できなくなり、そのまま死んでしまっているということです。

そこで研究チームは、海底に設置した廃タイヤを長期間モニタリングすることで、捕獲されるヤドカリの数と種類を調査しました。

実験では、青森県・陸奥(むつ)湾沿岸の水深8mの砂泥海底に6基の廃タイヤを設置。

タイヤび内側に侵入したヤドカリを月1回採取し、その数・種類・サイズを1年間にわたり継続的に記録しました。

その結果、ケブカヒメヨコバサミとユビナガホンヤドカリを主として、1年間で計1278匹が捕まっていたのです。

捕まる個体数は冬時期に増大し、春〜夏にかけては減少傾向にありました。

平均では、タイヤ1基で1日あたり0.58匹のヤドカリがゴーストフィッシュされています。

廃タイヤが「ヤドカリ」を殺すトラップになっていた
(画像=2015年10月〜2016年8月までの廃タイヤの変化(ローマ字順) / Credit: Atsushi Sogabe et al., Marine-dumped waste tyres cause the ghost fishing of hermit crabs(2021)、『ナゾロジー』より引用)

また、水槽下での実験で、タイヤの内側に侵入したヤドカリが外側に脱出できるかを検証しました。

タイヤの内と外に先の2種のヤドカリを放したところ、侵入率はユビナガホンヤドカリで66.7%、ケブカヒメヨコバサミで50%となっていました。

ところが、脱出率は、2種ともにゼロでした。

つまり、一度入ってしまえば、二度と外には出れないのです。

原因については、タイヤ内側がネズミ返しのようになっていること、表面の凹凸がないことが挙げられます。

廃タイヤが「ヤドカリ」を殺すトラップになっていた
(画像=脱出できなくなった大量の巻貝やヤドカリ / Credit: Atsushi Sogabe et al., Marine-dumped waste tyres cause the ghost fishing of hermit crabs(2021)、『ナゾロジー』より引用)
廃タイヤが「ヤドカリ」を殺すトラップになっていた
(画像=タイヤ内に見つかるヤドカリの殻 / Credit: Atsushi Sogabe et al., Marine-dumped waste tyres cause the ghost fishing of hermit crabs(2021)、『ナゾロジー』より引用)

この結果から、不法投棄されたタイヤは、意図せずしてヤドカリを捕殺していることが証明されました。

廃タイヤによるヤドカリへの悪影響が明らかにされたのは、今回が初めてです。

ヤドカリは、先ほど言ったように「海の掃除屋」でありながら、魚類や大型甲殻類のエサとして、海洋生態系の循環に大きく貢献しています。

しかし、廃タイヤの増加でヤドカリの捕殺に拍車がかかると、生態系のバランスが崩れかねません。

廃タイヤは、不法投棄のみならず、船の緩衝材や魚礁としても使われているため、予想以上に多くのタイヤが海底に没していると推察されます。

今後は、ゴーストフィッシングを防ぐための対策を考える必要があるでしょう。


参考文献
海洋投棄された廃タイヤがヤドカリを捕殺している

元論文
Marine-dumped waste tyres cause the ghost fishing of hermit crabs

提供元・ナゾロジー

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