今回の舞台は、東伊豆にある赤沢(あかざわ)。伊豆高原駅から車で10分以内で着く場所で、今年の6月に再オープンした場所でもある。今まではビーチがメインであったが現在はボートダイビングが可能となり、楽しめるダイビングの幅が広がっている。そんな赤沢の海は、私の中では伊豆半島でも今もっとも熱く、ポテンシャルの高い海と言ってもいいぐらいの場所なのである。

何がそんなに魅力的な海にしているのか?それは溶岩が作り上げた地形や流れ着く生き物の数、そしてレジャーダイビングの水深に現れる通常深場で見られる生き物たち。それ以外にもアオウミガメや根付き回遊魚が回って入ってきたり、この秋はザトウクジラまで登場したりしたのである。

魅惑のハナダイ
メインで使われているボートポイントは3カ所。急な斜面になっていて、水底の岩や石の形や粒の大きさがポイントにより異なる。そのおかげで、普通の人が見るとわかりにくいところもあるが、生き物が定着しやすい環境のバリエーションが多い。南方種も定着しやすいようで、伊豆半島で数年前まで1匹でも出たら大騒ぎのハタタテハゼは、ボートポイント全体を探せば何十匹、何百匹もいるのではないかというほどだ。そんな中でもハナダイやベラといったダイバーに人気の生き物の種類と量は、伊豆半島のエリアでも別格と言ってもいいぐらいだ。
9月中旬まではコウリンハナダイが、オス・メス共に数多く見られた。このハナダイ、1匹だけでも登場したらハナダイ好きには話題になる珍しい魚なのである。だが9月下旬に台風がきてからは、姿を消してしまったようだ。少し残念だと思ったが10月に入ると赤沢ダイビングセンターの仲榮眞(なかえま)さんが、これまた驚くようなハナダイを見つけてきた。それが、キシマハナダイのオスである。

幼魚は伊豆半島や伊豆七島でも見られることはあるが、オスは水深がとても深いところに生息しているので滅多にお目にかかることができない。赤沢で見られている個体は水深が深めであるものの、レジャーダイビングで行ける最大水深のギリギリな場所。さらに近くにはメスもいるので、夕方には求愛行動を撮影できるチャンスもある。

ただわかりづらい場所で、深場にいるため長時間滞在するのは安全面に不安な部分もあるので、赤沢ダイビングセンターのガイドがいないと観察や撮影は困難である。
キシマハナダイのオスが見られたのは衝撃的だったが、それだけでないのが赤沢の海。ほかの珍しいハナダイの種類も多いのである。フチドリハナダイの幼魚やベニハナダイの幼魚は、至る所で数個体まとまって見られる。小さいので見つけるのは難しいものの、色鮮やかでフォルムがかわいらしい。ほかの伊豆のポイントであれば、アイドル級の人気になるようなハナゴンベの幼魚も数匹見られるので、ここでは普通種のような扱いだ。またミナミハナダイも、撮影時には小さな群れを組んで元気よく泳ぐ姿が見られた。


ハナダイの生態系もおもしろい。今の時期、夕方になれば、たくさんいるサクラダイが各所で求愛をしている。私は以前にサクラダイの求愛を大瀬崎で何日もかけてひたすら追い続けて、撮影するまでに散々な苦労をした思い出がある。だが赤沢の場合はオスの猛烈な求愛が、時間帯さえ合えば見られる数が多いので、とても観察や撮影がしやすいのだ。

ハナダイだけじゃない!人気やおもしろい生き物もたくさん!
ここまでの話だとハナダイに特化している海のような印象だが、それ以外にも人気の生き物たちも数多く見られる。柏島や沖縄などでは根強い人気のクジャクベラの幼魚や、ハゼ好きにはたまらないアケボノハゼも観察されている。本当にここは伊豆の海なのか?と不思議な感覚になる。

珍しい生き物ばかりの紹介になってしまったので、少しおもしろい生き物を紹介していきたい。水深の浅い水底で休んでいたサザナミフグ。伊豆半島でもこの数年で見ることが急激に増えてきた、南方種のフグである。だが、とても珍しいわけではない。そんなサザナミフグをよーく見てみると、身体中に小さなコバンザメがついていた。しかも4匹も……。コバンザメも、今まではそこまで見られていなかった魚である。伊豆半島でこんなにコバンザメがついているのを見るのは、初めてだった。なかなか珍しい共生シーンに、遭遇することができた。

赤沢の「赤」の体色の生き物
ガイド仲榮眞さんが赤沢の頭文字にちなんで、赤い色の生き物も紹介してくれた。先程、紹介した情熱的な赤い体色のサクラダイ以外にも、温帯種のハナタツやハマサンゴの仲間など、赤い生き物が数多くいる。赤い葉状サンゴの仲間に乗るセボシウミタケハゼもまた、サンゴもハゼも赤色である。赤沢にちなんだ「赤」を探してもおもしろい。


生き物の種類が多く、珍しいものを見るチャンスも多い、魅力的な赤沢の海。行く度に驚かされることが多く、個人的にもまた行きたいなという気持ちになる奥が深い海である。潜れば潜るだけ、新しい発見があるボートポイントであり、秋の後半も赤沢からの情報に目が離せない。
撮影協力:赤沢ダイビングセンター
提供元・oceanα
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