右回りに回したコマは右にまわり、左回りに回したコマは左にまわり続け、やがて倒れます。
これは、誰もがしるコマの常識でしょう。
しかし純粋な科学的疑問として、回した方向と逆に回転するコマは存在するのでしょうか?
答えはYESなんです。
ラトルバックは古代の遺物として発見された
はじまりは、古代ケルトや古代エジプトで発見された、底がツルツルした奇妙なカヌー型の石器でした。
発見当初は何の用途に用いるか不明でしたが、コマのように回して遊んでみたところ、驚きの事実が判明します。
くるくると回っていた石がガタガタと音を響かせながら回転を停止させた…かと思いきや、逆方向に回りはじめたのです。
回転方向が逆になる「古代のコマ」はすぐに、当時(19世紀)の物理学者たちの注目を浴び、1890年に出された考察を皮切りに相次いで物理学的な解明の試みが行われました。
その後も研究は断続的に行われ、科学の進歩にあわせて解釈も進展。
呼び名も考古学的な「セルト石」から親しみやすい「ラトルバック(直訳:ガタガタ戻る)」へと変っていきます。
そして21世紀にはいるとコンピュータを用いたシミュレーションが行われるようになると数学的な理解が進み、ついにセルト石、改め「ラトルバック」の不思議の全容がみえてきました。
ラトルバックの回転が逆転する原理の超簡単な説明
ラトルバックが逆回転する最も大きな要因は、構造の非対称性があげられます。
一見すると左右対称のカヌー型にみえるラトルバックですが、多くの場合、底面の構造や重さの分布がカヌーの長軸に対して非対称になっています。
その結果、ラトルバックには回転しやすい方向(好きな方向)と、しにくい方向(嫌いな方向)が存在するようになります。(※上の動画のラトルバックの場合、反時計回りのほうが回転しやすい好きな方向です)
また構造や重さが非対称であるため、ラトルバックの運動は純粋な回転運動に加えて「縦揺れ」と「横揺れ」というグラつきがともなうようになっています。
初期に与えられた回転方向が、ラトルバックが好きな方向であった場合、このグラつきは回転方向に変化を与えません。
しかし初期回転がラトルバックが嫌いな方向(上の動画の場合は時計回り)であった場合、ラトルバックの姿勢が不安定になせいで、回転エネルギーが早期にグラつきの振動エネルギーへと変化してしまい、回転は急激にとまってしまいます。
問題はここからです。
通常の底が鋭いピンになっているコマの場合、回転がとまったタイミングと運動エネルギーが0になったタイミングは同じです。
初めが右回りであろうが左回りであろうが、運動エネルギーが尽きてしまえば、逆転も決して起こりません。
しかし底がツルツルで回転方向に好みがあるラトルバックが嫌いな方向に回されていた場合、回転がとまった段階では全体の運動エネルギーが失われておらず、縦揺れと横揺れからなるグラつきを残余のエネルギーで続けています。
そしてグラつきによる残余エネルギーが十分に高い場合、ラトルバックの回転運動に再点火が行われ、新たな方向(ラトルバックの好みの方向)に逆回転がはじまるのです。
以上が、ラトルバックが逆回転する原理の基礎になります。
通常のコマ(底がピン)が逆回転するには運動エネルギーを0にした後に再度外部から逆向きのエネルギーを加える必要があります。
しかし嫌いな方向に回されているラトルバックの場合、回転数が0になっても運動エネルギーがグラつきとして残っており、振動エネルギーが回転エネルギーへと方向付けされることで回転が再開します(ラトルバックが好きな方向へ)。
反転が繰り返される場合がある
非対称な構造を持つコマ「ラトルバック」が逆回転するのは、逆回転に必要なエネルギーを振動エネルギーとして蓄えていたからでした。
しかしラトルバックの研究では、左右の反転を何度も繰り返すケースが古くから何度も報告されています。
最近の例では、スプーンのような非対称な底面を持つものを改造して(柄をまげて)強引にラトルバックにした場合などに、反転の繰り返しがみられます。
柄を曲げられて作られたラトルバックは三次元的な構造をしているため、複数種類の振動と複数の回転の間に、エネルギーの複雑な授受が起こり結果として繰り返し反転が可能になったのかもしれません。
ラトルバックには、見かけの単純さに似合わない物理学が存在します。
例えば回転軸の歳差運動はジャイロスコープの基礎であり、回転する物体にかかる効果は天体学にも利用可能です。
古代から人類を魅了してきたラトルバックは、これから先も、物理学者たちのさまざまな挑戦を受けるでしょう。
参考文献
One-Way Spinning Top
Физик изготовил односторонний волчок
The Art of the Celt
提供元・ナゾロジー
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