栄養と成長をリンクさせる仕組みが解明されました。

英国ケンブリッジ大学で行われた研究によれば、栄養を検知して子供の成長と思春期入りのタイミングを調節する遺伝子を発見した、とのこと。

この遺伝子に異常があると、両親が高身長で十分な栄養をとっている子供でも、背は低くなり、思春期入りも遅くなってしまうとのこと。

研究内容の詳細は11月3日に『Nature』に公開されています。

目次

  1. 100年前より背が高く思春期が早くなった理由
  2. ダイエットで性欲がなくなる理由も同じ遺伝子のせいかもしれない

100年前より背が高く思春期が早くなった理由

栄養をたくさん取ると成長が促進されるメカニズムは脳にあった!
(画像=100年前より背が高く思春期が早くなった理由 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

栄養をとれば子供が早く、大きく成長するのは、誰もが当然だと思っています。

事実、栄養条件の改善により、私たちの身長は100年前に比べて高くなり、思春期に入る時期も前倒しになっています。

しかし、体がどのような仕組みで栄養の量を検知して、成長量や成長速度に反映させるかという、根本的な仕組みは謎に包まれていました。

そこで今回、ケンブリッジ大学の研究者たちは栄養量と成長を結びつけるメカニズムの解明に挑むことにしました。

調査にあたって研究者たちが最初に目をつけたのは、脳内で食欲を調整する遺伝子(メラノコルチン受容体)でした。

食欲を調整する遺伝子(メラノコルチン受容体)ならば、栄養量と成長の関係を取り持つ機能があると考えたからです。

そこで研究者たちは50万人の遺伝子データを分析して、身長や思春期に入る時期との関係を調べました。

結果、数千人においてメラノコルチン3型受容体に突然変異があり、そのうち812人の女性において思春期に入る時期が平均して4.7カ月、遅くなっていると判明します。

また90年代うまれの子供6000人を集中的に分析した結果、6人においてメラノコルチン3型受容体に突然変異があり、全員の背が低くいことがわかりました。

さらに、対になる染色体の両方においてメラノコルチン3型受容体に変異があった男性の場合、著しく低身長であるだけでなく、思春期に入ったのが20歳後半という極端に遅い時期となっていました。

この結果は、私たちの身長や思春期の始まりは、単純な栄養量が決めているのではなく、脳で働く栄養量を検知して成長信号に変換する遺伝子によって調節されていることを示します。

ダイエットで性欲がなくなる理由も同じ遺伝子のせいかもしれない

栄養をたくさん取ると成長が促進されるメカニズムは脳にあった!
(画像=ダイエットで性欲がなくなる理由も同じ遺伝子のせいかもしれない / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究により、栄養量を検知して成長を調節する遺伝子(メラノコルチン3型受容体)が存在することが示されました。

100年前に比べて私たちの身長が高くなり、思春期が早くなったのは、この遺伝子によって作られる受容体が栄養量の増加を検知し、成長量と成長速度の増加を促していたからです。

また追加の実験で、マウスのメラノコルチン3型受容体を破壊した場合、マウスの性的成熟が遅れることが確認されました。

この結果は、栄養量と成長にかかわる調節システムが、マウスから人間にわたる幅広い動物で共通(保存されている)であることを示します。

さらに通常のマウスは24時間絶食させることでメラノコルチン3型受容体が栄養不足を検知して、生殖周期を停止させる一方で、メラノコルチン3型受容体が破壊されたマウスでは、生殖周期の遅延がみられず、エネルギーバランスにかかわる制御が不全を起こしていることが判明しました。

人間も栄養不足によって生理周期や精子生産が止まり、性欲も弱くなることが知られていますが、同様の仕組みが働いているのかもしれません。

研究者たちは今後、栄養と成長の関係を応用することで、不妊治療や肥満治療、低身長の補正などに役立つ可能性があると考えています。

もしかしたら未来の薬局では「背を伸ばす薬」が胃薬や頭痛薬の隣に並んでいるかもしれませんね。

参考文献
Protein in the brain uses energy status to influence maturation, body size, new research shows
Scientists have discovered the receptor in the human brain that is responsible for people growing taller and reaching puberty earlier than ever
元論文
MC3R links nutritional state to childhood growth and the timing of puberty

提供元・ナゾロジー

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