子供のころ、紙飛行機や小さなグライダーのおもちゃを飛ばして遊んだかもしれません。

最近、YouTubeチャンネル「ViralVideoLab」は、「水と洗剤」の翼をもつグライダーの動画を投稿しました。

動画では、小さなグライダーがシャボン玉の薄膜を翼にして滑空する様子が映し出されています。

ここでは大人になってもワクワクするバブルグライダーのメカニズムを解説します。

目次

  1. シャボン玉液で滑空するバブルグライダー
  2. グライダーが長時間滑空できるのはどうして?
  3. 水と洗剤がグライダーに必要な大きい翼を作る

シャボン玉液で滑空するバブルグライダー

動画では水と洗剤の翼をもつバブルグライダーの作成方法が説明されています。

最初にバブルグライダーのフレームを3Dプリントします。

その後は尾翼を軽く曲げて形を整えるだけで、グライダー本体が完成しました。

幼心をくすぐるシャボンの膜で滑空するグライダー
(画像=3Dプリントされたフレーム / Credit:ViralVideoLab(YouTube)_Wings made out of water – bubble glider(2021)、『ナゾロジー』より 引用)

もちろんこのままでは翼がスカスカなので、グライダーは滑空できずに墜落してしまいます。

ここで重要なのが水と洗剤です。

深めの容器に水と洗剤を投入して、「シャボン玉液」を作ります。

そしてグライダーのフレームをシャボン玉液に浸すと、フレームの隙間にシャボン玉液の膜ができました。

幼心をくすぐるシャボンの膜で滑空するグライダー
(画像=水と洗剤の液にフレームを浸す / Credit:ViralVideoLab(YouTube)_Wings made out of water – bubble glider(2021)、『ナゾロジー』より 引用)

このままフレームに息を吹きかければ、たくさんのシャボン玉が飛んでいくはずですが、今回はそうしません。

シャボン玉液の膜を、グライダーの主翼と尾翼に利用するのです。

紙飛行機を飛ばすように、前方に押し出すとバブルグライダーはなめらかに滑空しました。

すぐに割れてしまいそうなシャボン玉液でも、グライダーの翼の代わりになることが分かりましたね。

では、このバブルグライダーはどのようなメカニズムで滑空しているのでしょうか?

グライダーが長時間滑空できるのはどうして?

まずグライダーが滑空できるメカニズムを考えてみましょう。

そもそもグライダーとは、エンジンを積んでいない航空機のことであり、基本的には上から下にゆっくりと落ちていくものです。

幼心をくすぐるシャボンの膜で滑空するグライダー
(画像=高性能複座グライダーDG1000 / Credit:Paul Hailday(Wikipedia)_グライダー、『ナゾロジー』より 引用)

人が乗るような本格的なグライダーは、高度600mから飛べば15分ほど滑空し続けることが可能であり、上昇気流を利用すればさらに長時間飛んでいられます。

もちろん通常の飛行機でもジェットエンジンやプロペラを止めた状態でいくらか滑空できますが、その滑空距離や時間はグライダーの半分以下になってしまいます。

では、グライダーが動力源なしでもここまで長時間滑空できるのはなぜでしょうか?

その秘密は機体の重量と翼の面積にあります。

グライダーは機体の重量に対して翼の面積が大きく設計されています。

そのため、下降していくときにたくさんの風を捉えることが可能。

幼心をくすぐるシャボンの膜で滑空するグライダー
(画像=翼に風が当たると揚力が発生する / Credit:Gap1(Wikipedia)_揚力、『ナゾロジー』より 引用)

これにより揚力(垂直方向に働く力)が大きくなり、軽い機体を長時間滞空させられるのです。

一方、動力付きの飛行機はジェットエンジンやプロペラで機体を前進させることで翼に風を当て、揚力を発生させています。

飛行機とグライダーの機体と翼の割合をみると、それぞれの特徴がはっきりと表れていますね。

幼心をくすぐるシャボンの膜で滑空するグライダー
(画像=(左)グライダー。胴体が小さく翼が長い(右)飛行機。胴体が大きく重い / Credit:(左)Depositphotos, (右)Depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

さて、バブルグライダーにもグライダーに必要な特徴が備わっていると分かります。

全体が細くて軽いフレームで構成されており、本体の重量に対して翼の面積が非常に大きくなっているのです。

そして次に大切なのは、滑空に耐えるシャボン玉液の翼を作ることでしょう。

水と洗剤がグライダーに必要な大きい翼を作る

バブルグライダーが翼を維持できるのは、そこにシャボン玉が維持されるのと同じメカニズムが働いているからです。

液体には表面張力という「表面をできるだけ小さくしようとする性質」があります。

幼心をくすぐるシャボンの膜で滑空するグライダー
(画像=水は表面張力が強く、小さな水滴になろうとする / Credit:Vlieg(Wikipedia)_表面張力、『ナゾロジー』より 引用)

水は特にこの力が大きいので、分子同士が引っ張り合って小さなかたまりである水滴になろうとします。

これではバブルグライダーの翼に必要な表面積の大きい膜を作ることができません。

そこで必要なのが、シャボン玉液には欠かせない洗剤です。

洗剤の主成分である「界面活性剤」には、水の表面張力を抑える働きがあります。

そのため水と洗剤を混ぜた液体は、表面積が大きい状態を保てるようになるのです。

これにより、シャボン玉の形を安定させられるほど、強くて安定した広い膜が作られます。

幼心をくすぐるシャボンの膜で滑空するグライダー
(画像=界面活性剤の働きにより、広い表面を維持できる / Credit:Brocken Inaglory(Wikipedia)_シャボン玉 、『ナゾロジー』より 引用)

さらに形成された膜は非常に薄く、その厚さは1μm~5nmだと言われています。

この膜の薄さもシャボン玉が浮いたり、バブルグライダーが滑空したりするのに必要な「軽さ」に貢献していると考えられますね。

もちろん、膜は時間経過でどんどん薄くなり最後には崩壊してしまうため、バブルグライダーの翼が維持されるのもわずかな時間だけでしょう。

さて、ここまででバブルグライダーが滑空できるメカニズムを簡単に解説しました。

実際には水と洗剤の配合比率や、機体の素材、翼の大きさ、フレームの厚さなど細かな調整が必要です。

幼心をくすぐるシャボンの膜で滑空するグライダー
(画像=改良されたバブルグライダー / Credit:kickflip444(ebay)_Bubble Glider physics toy – Glider with wings made of water(2021)、『ナゾロジー』より 引用)

もし、バブルグライダーで簡単に遊びたいのであれば、改良版バブルグライダーが販売されているので、チェックしてみてはいかがでしょうか。

商品1つの値段は9.99ユーロ(約1300円)となっています。

大人から子供まで楽しめるバブルグライダーは、科学的な思考と面白さを味わうにはピッタリのおもちゃなのです。


参考文献

This 3D-Printed Glider Uses Water and Soap To Fly Like Bubble Wands


提供元・ナゾロジー

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