認知症を患っている高齢者はますます増えています。

しかし根本的な治療法はなく、家族や施設の従業員は、日々進行していく症状になんとか対処していくしかありません。

そんな認知症患者の家族に朗報です。

アメリカのフロリダ・アトランティック大学(FAU)に所属する看護学生ブライアナ・シュタイト・ラローズ氏ら研究チームが、認知症患者の症状をロボットペットが緩和してくれると発表したのです。

研究の詳細は、10月13日付の学術誌『Issues in Mental Health Nursing』に掲載されました。

目次

  1. 認知症患者と家族の苦悩
  2. ロボットペットは認知症患者の気分と行動を改善させる

認知症患者と家族の苦悩

アルツハイマー型認知症は、脳神経の変性によって認知機能が大きく低下する病気です。

認知症を患った高齢者は、性格や言動が大きく変化してしまう場合があります。

攻撃的になって大声を出したり、不安や妄想で心がいっぱいになり急に泣き出したりするでしょう。

排泄・食事・睡眠といった日常生活にまで影響をきたすことも多く、お世話をする人は少しも気が抜けません。

2.ロボットペットに「認知症高齢者の行動を改善する作用」があった
認知症患者には長く続く介護が必要 / Credit:Depositphotos
(画像=『ナゾロジー』より 引用)

そして認知症患者の家族は、認知症を患った親や配偶者の幸せを願う心と、慢性的な介護疲れに板挟みされることでしょう。

症状を緩和させる方法には、抗うつ薬、抗不安剤、睡眠導入剤などの薬物処方が挙げられますが、これらにはしばしば副作用が伴います。

では副作用がなく、安価で、すべての家庭や施設で簡単に導入できる画期的なケアの方法はあるのでしょうか?

研究チームは、ペットセラピーに着目しました。

ペットセラピーは、ペットと接することで気分や行動が改善される費用対効果の高いケアです。

しかし、患者のためにペットを飼育するのは現実的ではありません。

そこでチームが活用したのは、ロボットペットです。

ロボットペットは認知症患者の気分と行動を改善させる

3.ロボットペットに「認知症高齢者の行動を改善する作用」があった
ロボットペットで認知症の症状が緩和される / Credit:Depositphotos
(画像=『ナゾロジー』より 引用)

チームはロボットペットがもたらす影響を調査するため、手頃な値段のロボットネコを購入。

そのロボットネコを認知症患者たちに与えました。

その際、患者には「ロボットネコが生きている動物ではなくロボットである」ことがはっきりと伝えられました。

また患者にはロボットネコの名前を決めてもらい、首輪と名札もつけてもらうことに。

そして日々の生活を共に送ってもらい、患者の気分や行動がどのように変化するか調査したのです。

その結果、実施したいくつかの検査のすべてで、患者の気分スコアに改善が見られました。

またうつ症状の改善し、注意力や計算力、言語能力にも小~中程度の向上が確認されたようです。

実際研究チームは、患者がロボットネコに笑顔で話しかける様子を観察しています。

患者たちは、ロボットネコの鳴き声や頭の動き、まばたきを見て、「自分の話を聞いてくれている」「自分を愛してくれている」と感じたようです。

さらに患者のうち何名かは、ロボットネコと一緒に遊んだり寝たりしました。

患者たちは可愛らしいロボットペットとのコミュニケーションに夢中になる中で、自然と気分や行動、そして認知機能が改善されていったのです。

この結果に対してチームは、次のように付け加えています。

「重要なのは、認知症患者の気分や行動の改善が、介護者や家族の生活の質を向上させる、という点です」

さて、ロボットペットを使ったケアは、ペットの世話やアレルギーの心配がありません。

頭や目が動く程度のロボットペットであれば、比較的安く販売されているため、ほとんどの家庭で導入できるでしょう。

現在、認知症の家族を介護しているのであれば、ぜひロボットペットを購入してみてはいかがでしょうか?

家族の負担が少しでも減り、患者自身ももっと幸せになれるかもしれません。


参考文献
Robotic Pet Boosts Mood, Behavior and Cognition in Adults With Dementia
CAT’S MEOW: ROBOTIC PET BOOSTS MOOD, COGNITION IN ADULTS WITH DEMENTIA

元論文
Improving Behavioral and Psychological Symptoms and Cognitive Status of Participants With Dementia Through the Use of Therapeutic Interactive Pets


提供元・ナゾロジー

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