日本人に最も愛されたロレックスと言えば、「エクスプローラーⅠ」だろう。特に90年代後半には、超人気アイドルがドラマで身に着けていたことで、高級時計にも関わらず売り切れが続出するほどの人気となった。「エクスプローラーⅠ」はすでに過去のものなのか、今でも買う価値があるモデルなのか——。

国民的タレントが一世一代の会見で選んだのはロレックス「エクスプローラーⅠ」

2020年2月の行われた元SMAP中居正広氏のジャニーズ事務所退所会見は、国民的な関心を集めた。多くの人は何を語ったかに注目したが、時計クラスターは彼の腕元に釘付けになった。袖をまくったその腕に巻かれていたのはロレックスの「エクスプローラーⅠ」だったからだ。

時計に詳しい人なら、それを見て「なぜ今さらこのモデル?」と思ったはずだ。何しろマニアの中では、「エクスプローラーⅠ」は今やド定番で、さして面白味もなく、超人気芸能人の一世一代の記者会見の場にはあまりにも力不足に感じられたからだ。

この「エクスプローラーⅠ」は90年代後半、日本で爆発的な人気を博し、一斉を風靡したことがあった。

もう1人の国民的アイドルがロレックスブームに火を着けた

ロレックスは、かつてオジサンの象徴的存在だった。「金は持っているが野暮ったい中年の持ち物」というイメージがあったのだ。

そのイメージを払拭したのが、SMAPの木村拓哉氏だと言われている。視聴率30%を超えたドラマ『ラブジェネレーション』(1997年)で、木村氏が着用していた時計がロレックスの「エクスプローラーⅠ」だった。

その結果、人気が爆発、若い人が店に殺到し売り場から「エクスプローラーⅠ」が消え、価格は高騰した。それまで中古なら20万円以下で買えたものが一気に50万円近くに暴騰してしまったのだ。

なぜロレックス「エクスプローラーⅠ」が日本人に愛されるのか

これほどまでに人気が出たのは、もちろんキムタクが起爆剤になったことは間違いない。しかし、「エクスプローラーⅠ」自体に魅力がなければ大ヒットしなかったはずだ。「エクスプローラーⅠ」が日本人に愛された理由を4つ挙げてみたい。

ルックスが若々しく、カジュアルファッションに合う

モデル名のとおり「探検」のために生まれた「エクスプローラーⅠ」の「3時」「6時」「9時」のインデックスには、アラビア数字が使われている。アラビア数字インデックスは、伝統的なバー型やローマン数字のインデックスに比べて、瞬時の視認性に優れている。ミリタリーウォッチによくアラビア数字が使われるのも同じ理由だ。

アラビア数字インデックスの効果は、それだけではない。非常に若々しい印象を与え、カジュアルファッションにマッチするのだ。それまでロレックスに見向きもしなかった若者が、スーツではなくカジュアルファッションに合わせ始めたのだ。

『クロムハーツ』をはじめとするシルバーアクセの流行も大きい。シルバーアクセと同等の存在感がある「エクスプローラーⅠ」の硬派な3連ブレスレットは、アクセ代わりとしても重宝され、シルバーアクセとの相性抜群だった。

ロレックスのスポーツモデルの中では最も安い

「エクスプローラーⅠ」の現行モデルの定価は68万7,500円。ロレックスのスポーツモデルの中で最も安い。

90年代後半のブーム当時、「エクスプローラーⅠ」の定価は34万円で、その時もスポーツモデルの中では最も安かった。

当時は並行輸入品なら定価よりかなり安く買えたし、前述のとおり中古なら20万円もあれば買えた。そのため、少し頑張れば社会人になりたての若者でも手に入れることができたのだ。

40mm以下のサイズ感が日本人の腕やメンタルにフィットした

ブーム当時の「エクスプローラーⅠ」のサイズは、36mm とかなり小さい。ちなみに現行モデルは39mmと若干大きくなったが、40mm以下のロレックスのスポーツモデルは「エクスプローラーⅠ」だけだ。デカ厚ブームを経た現代では、現行モデルでもかなりコンパクトと言えるだろう。

しかし、このサイズ感が日本人にはちょうど良かった。欧米人に比べ腕が華奢な日本人には、40mm以下のサイズが「収まり」という意味でベストだったのだ。

ブランドをこれみよがしに主張したくないという日本人のメンタリティー的にも、控えめサイズがマッチしたのだろう。

オンでもオフでも着けられる時計

ロレックス「エクスプローラーⅠ」の現在の高騰ぶりを考えると、ブーム以前に20万円で買えたのは破格に思えるが、それでもロレックスが高価であることに変わりはない。

カジュアルには「エクスプローラーⅠ」、スーツには「デイトジャスト」と、シーンに合わせて何本もおいそれと手に入れられるものではない。

しかし、この「エクスプローラーⅠ」はスーツにもよく合うのだ。なるほど、ブラックダイヤルの精悍さ、3針でシンプルな清潔感、シャツの袖に収まるサイズ感が、スーツに合わないはずがない。

オンオフ両方いける汎用性を持った「エクスプローラーⅠ」は、高級時計は1本しか買えないという層にも響いた。これは現在、「クルマは1台しか持てない、でも都会でもアウトドアでも使いたい」という層にSUVが受けている理由と同じだと言える。

現行のロレックス「エクスプローラーⅠ」を今すぐ買うべき理由

「エクスプローラーⅠ」の90年代後半の熱狂的なブームは鳴りを潜め、存在感が薄れている。だが時計マニア以外の人にロレックスを1本だけすすめるとしたら、やはり「エクスプローラーⅠ」になるだろう。驚くべきことに、その理由はブームになった20年前と変わらない。

新品が100万円以下で買えるスポーツロレックスは、残念ながら「エクスプローラーⅠ」しかない(ただし、実際は定価では買えないので並行輸入の価格になるが)。

昔の価格を知る世代は、あまりに高すぎると思うだろうが、ロレックスはますます人気が上昇し、価値が上がり続けている。そろそろ認識を改めるべきだ。現在の「エクスプローラーⅠ」は確かに高価だが、ロレックスのスポーツモデルの中では安いことは、まぎれもない事実。今後も値上がりは必至なので、欲しければ買って損はないだろう。

腕なじみや汎用性の面ではどうだろう。ブームから20年以上たった今でも、ロレックスは「エクスプローラーⅠ」を超えるオンオフ兼用モデルを出せていない。

繰り返しになるが、多くの日本人の腕にフィットし、スーツにも合う40mm以下のスポーツモデルは「エクスプローラーⅠ」しかない。もちろん、カジュアルにも合うアラビアインデックスも健在だ。

投機的にも買いの理由がある。今年の始めに行われたロレックスの価格改定で唯一値上がりせず、さらに現行モデルが登場して10年経ったことから、いよいよ2020年に新型が出るという噂があるのだ。

ロレックスは新型が出ると、旧型の最終品番にプレミアが付き価値が高くなる。もし新型が本当に出るなら、現行「エクスプローラーⅠ」は投機的にも今すぐ買うべきモデルと言える。
 

「エクスプローラーⅠ」は国民的ロレックスであり続ける

「エクスプローラーⅠ」は、今でも“国民的ロレックス”と言っても過言ではない。

そう考えると、中居正広氏がジャニーズ退所会見という大事な舞台で、あえて「エクスプローラーⅠ」を選んだ理由がわかる気がする。

手頃で使いやすいがゆえに誰からも愛される“国民的ロレックス”を身に着けることで、誰にとっても身近な存在である国民的タレントとしてこれからも生きていく決意を表明した、と考えるのは深読みが過ぎるだろうか。
 

文・吉本隆太(時計ライター)
 

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