医療費控除ではその費用の種類に応じて、控除の対象になるかどうかや控除額の割合が細かく定められている。一方、薬局などで購入できる特定一般用医薬品の購入費に対する控除も2016年度にスタートしたがまだその詳しい内容を知らない人も多い。
出産費用――個室を希望した場合の差額は医療費控除の対象?
医療費控除で対象となるのは、医療機関などから妊婦という診断を受けてからの定期検診費用や検査費用のほか、通院に掛かる交通費などだ。
交通費にはバスや電車などの公共交通機関やタクシーも含まれるが、タクシー代が医療費控除の対象となるのはバスや電車での移動が困難であったときに限られてくる。これは具体的に言えば、出産前の緊急時などを指す。自家用車で通院した場合のガソリン代も医療費控除の対象外となる。妊婦が親元である実家に出産のために帰省したときの費用も対象外だ。
妊娠・出産で入院した際に購入した就寝用の衣服や洗面用具なども医療費控除の対象外となる。入院しているときの食事代については、病院食として入院代の一部で支払われたものは医療費控除の対象となるが、デリバリーなどの出前で食べた飲食物は医療費控除の対象外となる。
そのほか、本人の希望で入院する部屋を相部屋ではなく個室にした場合などは、入院費用に加算されたベッド代や部屋代などは医療費控除の対象とならない。
出産後の医療費で控除の対象となるのは、出産から1カ月で行う「1カ月検診」や母乳指導などの保健指導に掛かった費用だ。
入院費用――医師や看護師などへの謝礼金の扱いは?
入院費用も医療費控除の対象となる。入院費用の医療費控除では、特に対象外となるケースについて覚えておきたい。
例えば出産費用のときと同様に、入院する前もしくは入院中に購入したパジャマなどの寝間着や歯ブラシやコップなどの日用品などは、医療費控除の対象外となる。もちろん、病院内の売店などでこれらの商品を買った場合にも対象外となる。
退院するとき、お世話になった医師の先生や看護師などに謝礼を渡すことも多い。この謝礼も医療費控除の対象外となる。また、出産費用に対する医療費控除の条件と同じく、入院するときに本人が希望して個室などを希望した場合、相部屋などに入院したときの費用にベッド代などが加算されるが、この加算された金額は医療費控除の対象外となる。
入院する際に付添人をつけた場合の費用は、親族などに付き添いを頼んだケースでは原則的には医療費控除の対象外となるが、付き添いが必要な病状のときに親族以外の人に対価を支払って付き添ってもらった場合、その費用は医療費控除の対象となる。
そのほか、病院食は妊婦のケースと同様に医療費控除の対象に含まれるが、ラーメンやピザなどの出前を取った場合の飲食費は医療費控除の対象外となる。
歯の治療――矯正に掛かった費用は医療控除の対象外?
医療費控除に関して、多くの人にとっても関心が高いのが歯の治療に関する医療費控除だ。原則的には、歯科医師が診療・治療した場合の対価として支払われ、一定水準を超えない範囲内で医療費控除の対象となる。実際に具体例をあげながら、医療費控除の対象になる場合と対象外となる場合について説明していきたい。
歯の治療・診察を歯科医院などで受ける場合、医療保険の対象外となる自由診療による治療や通常よりも材料費が高い素材を使って治療が行われるケースがある。こういったケースの場合は、通常の治療費よりも金額が著しく高くなるケースでは医療費控除の対象外となる。
よく医療費控除の対象となるか対象外となるか質問として挙げられるのが、歯の矯正治療だ。基本的には歯の矯正に関する診察費用や治療費用は、治療を受ける人の年齢や目的を鑑みて医療費控除の対象となるか対象とならないかが決められる。
一般的には、成長段階の子供で矯正が必要とされると歯科医師が判断した場合などは医療費控除の対象となる。一方で、単に歯並びを良くしたいなどの目的で歯の矯正を行ったケースでは、医療費控除の対象外となる。
歯の治療・診察を受けるための歯科医院などへの通院費については、バスや電車などの公共交通機関を利用した際の交通費は対象となる。一方で、自家用車で通院した場合のガソリン代は医療費控除の対象外となる。治療を受ける対象がまだ小さい子供などの場合は、付き添った人の交通費も医療費控除の対象となる。
介護保険制度で「施設サービス」などを受けたケース
指定介護老人施設や介護老人保健施設、指定介護療養型医療施設などにおいて、介護保険制度下で施設が提供するサービスに対して支払った費用も、医療費控除の対象となるケースと対象外となるケースに分かれる。支払った額に対する控除額の比率も施設のタイプによって異なる。
基本的には、施設が提供するサービスの対価として支払った介護費や食費、居住費などは医療費控除の対象となるが、施設に入居していない通常の生活時にも必要となるものに対する費用や、各施設で特別に提供しているサービスの費用などは医療費控除の対象外となる。
支払った費用に対する控除額は、対象となる施設のうち指定介護老人施設の場合のみ費用の50%の控除となる。指定介護老人施設などで発行される領収書には、実際に支払った費用のうちの医療費控除の対象となる金額が明記される。ほかの施設では支払った費用の100%が医療費控除の対象となる。
介護保険制度で「居宅サービス」などを受けたケース
会議保険制度下で受ける介護サービスは自宅で受けるケースもある。前項で説明した指定介護老人施設などで提供されるサービスに対する支払い費用に対するものとは、医療費控除の枠組み自体が異なる。
自宅などで介護サービスを受ける場合は、その介護サービス自体が医療費控除の対象となるサービス、前述の介護サービスと併用して利用した場合にのみ医療費控除の対象となるサービス、そもそも医療費控除の対象外であるサービスの3タイプに分かれる。
そのサービス単体で医療費控除の対象となるのは、訪問看護・リハビリテーションや介護予防保険看護・リハビリテーション、医師などによる居宅療養管理指導、介護予防通所リハビリテーションなど12種類。これら12種類のいずれかと併用した場合に医療費控除の対象となるのが、生活援助が中心とならないホームヘルプサービスなどの訪問介護や訪問入浴介護、夜間対応型訪問介護、認知症対応型通所介護など18種類となっている。
居宅サービスのうち医療費控除の対象外となるのは12種類で、生活援助が中心となる訪問介護や介護予防認知症対応型共同生活介護、福祉用具貸与、介護予防福祉用具貸与、地域支援事業の生活支援サービスなどとなる。
居宅サービスに対する医療費控除はこのようにサービス内容によって明確に対象と対象外が決められている。
薬局で買える薬が対象の「セルフメディケーション税制」とは?
医療費控除の特例として、「セルフメディケーション税制」という枠組みがある。このセルフメディケーション制度は、2016年度の税制改正大綱によって新設された。セルフメディケーションとは、病院などに通院せずに個人で健康増進に努めるという意味だ。このセルフメディケーション税制では、特定一般用医薬品購入費として支払った金額を医療費控除の対象としている。
特定一般用医薬品とは、医師が作成した処方箋によって処方される医療用医薬品を基に、処方箋なしで購入することが可能なように転用された一般用医薬品のことを指す。この特定一般用医薬品は「スイッチOTC」とも呼ばれる。カウンター越し(オーバー・ザ・カウンター)で客に販売されることから「OTC」という名称が使われる。この特定一般用医薬品は、薬局やドラッグストアの店頭で気軽に購入することが可能だ。
このセルフメディケーション税制の適用を受けるためには、いくつかの条件がある。それは、納税者があらかじめ規定された健康保持・保持や疾病予防の取り組みを行っているかどうかだ。この取り組みを行っていない場合、セルフメディケーション税制の適用対象外となる。
対象となる具体的な取り組みとしては、「健康保険組合などが実施する人間ドックなどの健康診査」「市区町村が生活保護受給者等を対象とする健康診査」「インフルエンザワクチンや定期接種などの予防接種」「勤務先で実施する定期健康診断」「メタボ検診など」「市町村が実施するがん検診」などだ。
セルフメディケーション税制で実際に控除される金額は、支払金額の合計額から1万2000円を引いた額で、最高控除額は8万8000円となっている。
コンタクト購入費やレーシック手術は医療費控除の対象外?
最後に、医療費控除についてインターネット上などでもよくトピックスとして挙がる項目についても解説していきたい。
義手や義足、義歯などのほか、松葉杖や補聴器などを購入するための費用は医療費控除の対象となる。一方これらは「日常最低限の用をたすために供される」ことが条件となっている。美容手術などは病気を治療するためではないとの判断から、そもそも医療費に該当しない。そのため医療費控除の対象外となる。
医師に診断書の作成を依頼した場合の費用や疲労回復を目的に購入した栄養ドリンク剤の費用、母体保護法下で行われない妊娠中絶に要する費用なども医療費控除の対象外となる。眼鏡やコンタクトレンズを購入する際に支払った費用も医療費控除の対象外となる。
視力回復レーザー手術(レーシック手術)やオルソケラトロジー治療(角膜矯正療法)の費用は、かつては医療費控除の対象外だったが、現在では医療費控除の対象となっている。人間ドックやメタボリックシンドローム健康診査なども原則的に医療費控除の対象外となる。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)
【関連記事】
・ネット証券は情報の宝庫?日経新聞から四季報まですべて閲覧可!?(PR)
・40代で「がん保険」は必要か?
・40歳から効率的にお金を貯めるための6つのステップ
・共働きの妻が産休・育休中でも夫の「配偶者控除」を受けられる 意外と知らない節税法
・40代が知っておきたい保険の知識まとめ