冬になるとインフルエンザを始めとした病気の感染率が高まります。

現在問題になっているCovid-19も、冬の到来を機に再び感染者数が増加。これは単純に冬はウイルスの活動しやすい環境だからだと理解されていますが、他にも要因のある可能性が出てきました。

10月27日に医学系のプレプリントサーバー「medrxiv」に発表された新しい研究は、時間帯や季節に応じて白血球の変動が確認でき、免疫機能に時間対応した強弱が生じている可能性を示唆しています。

研究はまだ正式な審査を通過していませんが、インフルエンザなどが冬に流行する一方、多発性硬化症などの一部の病気は夏に悪化する理由を説明できる可能性があります。

目次

  1. 免疫システム内の時計
  2. 環境やライフスタイルには影響されない免疫系の変化
  3. なぜ時間帯によって免疫系の力が変化するのか?

免疫システム内の時計

「冬に病気になりやすい理由」が示される。 ヒトの免疫系に季節のリズムがあったから?
(画像=免疫系は体内時計に影響されているかもしれない。 / Credit:pixabay、『ナゾロジー』より引用)

新しい研究では、免疫システムの中には時計やカレンダーのような機能があり、特定の時間帯や季節に感染や怪我をしやすくなる可能性があると示唆されています。

これは、これまで確認されていない事実です。

今回の研究を主導したアイルランド王立外科医学院のキャシー・ワイズ博士によると「人々が冬に特定の病気にかかりやすいことは何世紀にも渡って明らかな事実ですが、それが私たちの体内の機能とどのように関連しているかは理解されていません」と述べています。

研究では、UKバイオバンクで集められた32万9261人分の血液サンプルのデータが利用されました。

UKバイオバンクは、10年以上に渡って英国人50万人の健康状態を追跡している研究で、今回のサンプルもいつ収集されたかという細かな情報も付随していました。

この大規模なデータから、研究チームは血液中の白血球数と炎症マーカーに、明らかな変動があることを発見しました。

そしてそれは、免疫機能が時間帯や季節によって、強まったり弱まったりしている可能性を示していたのです。

このことからワイズ博士は「免疫系の内部に、時計やカレンダーが存在する可能性が強く支持される」と述べています。

環境やライフスタイルには影響されない免疫系の変化

「冬に病気になりやすい理由」が示される。 ヒトの免疫系に季節のリズムがあったから?
(画像=明け方に免疫機能は高まる可能性がある。 / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

この発見において重要な点は、免疫系に見られる変動が被験者のライフスタイルや環境などの要因、ビタミンDレベルなどと関連していなかったことです。

この変動で疑われるのは体内時計との連動だといいますが、こうした報告は、何も今回が初めというわけではありません。

インペリアル・カレッジ・ロンドンでは、マウスを使った実験で、免疫が生物の活動時間と連動して機能している可能性を発見しています。

この実験では、マウスが活動する朝の時間帯に白血球がリンパ節に集まっている様子が観察されたといいます。

リンパ節の白血球はウイルスに対する免疫反応の鍵となっており、こうした事実はマウスがどの時間帯にウイルスの攻撃を受けたかによって、数日後の免疫反応に大きく影響を及ぼしているといいます。

また、バーミンガム大学で2016年に科学雑誌『Vaccine』で発表された研究では、季節性インフルエンザワクチンを午後に投与するより、朝に投与した場合の方が効果的な免疫反応を示すことが報告されています。

英国のMRC分子生物学研究所のジョン・オニール博士は2017年に科学雑誌『Science Translational Medicine』で発表した研究において、マウスは概日の休息期間中(夜寝ている時間)に受けた怪我より、活動期間中(昼の起きている時間)に受けた傷のほうが治りが速いことを報告しています。

なぜ時間帯によって免疫系の力が変化するのか?

「冬に病気になりやすい理由」が示される。 ヒトの免疫系に季節のリズムがあったから?
(画像=夜間は仕事が減ると免疫系も認識している可能性がある。 / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

ワイズ博士によれば、「これらの結果のもっとも単純な解釈は、日中の活動時間がもっとも病原体に接触する可能性の高い時間であるためだ」と述べています。時間を制限して活発に活動することは、病原体と戦う中で免疫系が獲得した進化だと考えられるのです。

この考えに従えば、生物の活動が制限される夜間や冬季は、免疫系が弱まる可能性が高くなります。まるで24時間店舗のシフトのように、仕事がそこまで増えそうにない時間は、免疫系もワンオペになるのかもしれません。

冬に病気が流行するのは、かつての生物と異なり、人間は冬でも活動的であり、病原体に暴露される機会が夏と変わらないからという可能性があるようです。

もしこうした予測が事実ならば、免疫系の弱まる時間帯や季節の活動を制限し、免疫系の強まるタイミングでワクチンなどを利用すれば、危険な病原体を効率的に駆除できるかもしれません。

ただ、注意しなければならないのは、この研究がまだ審査を通っていない途上の研究であるということです。研究者のワイズ博士も現在示されている結果に過度の解釈はしないよう警告しています。

しかし、事実がどうあれ、冬に病気が流行りやすいことは私たちもよく理解していることです。Covid-19の有効なワクチンも開発されていない以上、当分は慎重さが求められるのは仕方のないでしょう。

参考文献
The Guardian

提供元・ナゾロジー

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