欧州経済の景況感が急回復している。欧州委員会が公表する6月の経済景況感指数は21年ぶりの高水準となった(図表)。ワクチン接種の加速やワクチン接種証明書の実用化が背景にあるとみられる。

EUでは7月初めまででワクチン接種を完了した人が35%、少なくとも1回の接種をした人は50%を超えた。年初にはアストラゼネカ製のワクチン供給が想定より少なく、想定ほど接種が進まなかったが、足元では「夏の終わりまでに成人の70%以上への接種完了」という目標達成が視野に入るまで挽回した。

さらに7月からワクチン接種証明書の本格的な利用が開始され、証明書保有者がユーロ域内を移動する際には、移動先で求められていた隔離期間が原則不要となった。証明書の活用方法は各国当局に任されているが、観光関連産業の多い南欧を中心に行動制限の緩和が進むことも期待される。欧州のバカンスシーズンは長く、宿泊者数で見ると例年6月ごろから急増し、8月にピークを迎える(図表)。欧州委員会が証明書の活用構想を提案した3月以降に急ピッチで準備を進め、構想の実現時期をバカンスシーズンに間に合わせた。実体経済の回復は景況感の改善に追い付いていないが、夏の域内移動が活発化することによって経済回復に弾みが付くものとみられる。

ユーロ圏の成長率は前期比年率で今年1~3月期2.4%減、4~6月期1.3%減と上半期は2四半期連続のマイナス成長となった。下半期は域内移動の活発化などを受けてプラスに転じ、筆者は2021年のユーロ圏の成長率を前年比4.3%増と予想している。

ただし、ワクチン証明書の本格利用による経済回復が期待どおりに実現するかは予断を許さない。足元では、欧州内で感染力の強いデルタ変異株の流行の兆しが見られる。ワクチンが変異株に対して十分に効果を発揮せず、医療崩壊を招くリスクが高まれば、再び経済活動を制限せざるを得ないからだ。

当局も警戒感を高めている。例えばコロナ禍で延期されていたサッカー欧州選手権が6月から欧州各地で実施されたが、世界保健機関(WHO)は感染拡大のイベントになりかねないと注意喚起した。経済再開の動きの中で、感染拡大による医療への負荷の高まりがワクチンや証明書の効果を上回れば、行動制限の再強化が必要となるだろう。

バカンスシーズンに行動制限を課すことは経済に大きなダメージとなるが、経済再開と医療崩壊防止の両立は一筋縄ではいかなそうである。各国政府のかじ取りも難しい状況にある。

ワクチン証明書で経済回復期待が高まるも予断を許さず
(画像=『きんざいOnline』より引用)

文・ニッセイ基礎研究所 准主任研究員 / 高山 武士
提供元・きんざいOnline

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