失われた狩猟技術が復活したようです。

スペインの国立研究協議会(CSIC)で行われた研究によれば、ネアンデルタール人が行っていたであろう、素手で鳥を捕獲する技術を再現したとのこと。

研究者たちは復活させた技術により最終的に、5525匹ものベニハシカラスを捕えることに成功しています。

研究内容の詳細は『Frontiers in Ecology and Evolution』にて公開されています。

目次

  1. ネアンデルタール人はどうやって鳥を捕えていたのか?
  2. 夜襲して素手でとらえる
  3. いつでも「ヤキトリ」が食べられるのになぜ絶滅したのか?

ネアンデルタール人はどうやって鳥を捕えていたのか?

ネアンデルタール人の俊敏な鳥の狩猟方法 研究したら素手で十分だった
(画像=ネアンデルタール人はどうやって鳥を捕えていたのか? / Credit:Guillermo Blanco . ナゾロジー編、『ナゾロジー』より 引用)

ネアンデルタール人は今から4万~3万5000年前に絶滅した、私たちに最も近い種族です。

これまで発見された化石や遺物によって、ネアンデルタール人は、獣・甲殻類・木の実・松ぼっくり・キノコに加えて、鳥(特にベニハシカラス)を食べていたことが明らかになっています。

ネアンデルタール人の遺跡でみつかるベニハシカラスの骨の化石は、石器によって解体された跡や、火によって焦げたあとがみつかっています。

しかしそうなると気になるのが、ネアンデルタール人がベニハシカラスを捕えていた方法です。

ベニハシカラスは非常に俊敏な動きをする鳥であり、正面からのアプローチで捕まえることは、非常に困難だからです。

そこで今回、スペインの国立研究協議会(CSIC)の研究者たちは、ネアンデルタール人が行っていたであろう、狩猟方法を再現する試みを行いました。

夜襲して素手でとらえる

ネアンデルタール人の俊敏な鳥の狩猟方法 研究したら素手で十分だった
(画像=夜襲して素手でとらえる / Credit:Guillermo Blanco . ナゾロジー編、『ナゾロジー』より 引用)

ネアンデルタール人はいったいどんな方法でベニハシカラスを捕えていたのか?

研究者たちが辿り着いた答えは、夜襲でした。

ベニハシカラスは他の鳥とは異なり、コウモリのように洞窟に住む性質がある珍しい鳥です。

ただベニハシカラスはコウモリと違って夜行性ではなく、夜の活動が苦手です。

そこで研究者たちは、ベニハシカラスが寝込んだところを襲うことにしました。

また襲うにあたって使う道具は、ネアンデルタール人が持ちえた技術(松明・ハシゴ・網など)に限定しました。

すると意外なことに、ベニハシカラスはアッサリと、しかも素手で捕まえることができたのです。

ベニハシカラスたちは、松明の代りに用意されたランプの光によって混乱し、あるものは天井に引っかかったり、洞窟の行き止まりで停止して、素手で捕獲することができました。

また洞窟の外に飛び出ようとしたものも、入口に設置された簡易な網によって捕獲することに成功します。

研究者たちは実験期間を通しておよそ70のねぐらを強襲し、5525匹のベニハシカラスを捕えることに成功します。

同様の方法をネアンデルタール人がとっていた場合、彼らは人類と同等レベルの観察眼と知性を持っていた言えるでしょう。

ベニハシカラスを素手でとらえるには、鳥たちの行動パターンを理解するだけでなく、ベニハシカラスが松明にどのように反応するかなど、細かな知識も必要とするからです。

いつでも「ヤキトリ」が食べられるのになぜ絶滅したのか?

ネアンデルタール人の俊敏な鳥の狩猟方法 研究したら素手で十分だった
(画像=いつでも「ヤキトリ」が食べられるのになぜ絶滅したのか? / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)

今回の研究により、ネアンデルタール人の技術水準でも、素手で大量のベニハシカラスを捕えられることが示されました。

実際に生きていたネアンデルタール人もまた、同様の素手や松明や網を用いた方法でベニハシカラスを捕えて食べていたと考えられます。

ですがそうなってくると、ネアンデルタール人が絶滅した理由がますますわからなくなってきます。

こんなに楽に高カロリーの「鳥肉」を得る方法がありながら、なぜ絶滅してしまったのでしょうか?

その原因は主に3つ考えられます。

1つ目は環境変化です。

数千年、数万年というスケールで地球の気候は大きく変化しています。

そのため気候条件によっては、ベニハシカラスの生息域が、ネアンデルタール人の生息域とズレてしまう可能性があるのです。

またベニハシカラスがねぐらにする洞窟の数も場所も限られており、容易に乱獲による獲り尽くしが起きてしまいます。

2つ目の原因は、人類の登場です。

ネアンデルタール人の絶滅した時期は、人類が進出した時期と被っているだけでなく、人類との接触後5000年という極めて短期間での絶滅が起きています

最新の「研究」によれば、当時、人類には三日月形石器を天然の接着剤で木の棒に固定した、弓を開発していることが示されていますが、ネアンデルタール人が弓を使っていた痕跡はみつかっていません。

そのため、生存競争が発生した場合、技術力で優れる人類は、ネアンデルタール人を駆逐してしまったと考えられます。

最後の3つ目は、同化です。

近年の研究により、非アフリカ系の人類には全て、ネアンデルタール人の遺伝子が含まれていることが知られています。

これは新しく進出してきた人類が、現地にいたネアンデルタール人との間に子供を残し、その子供が全ての非アフリカ系の人類の祖先になったことを示します。

アジア系、白人系の人類において、ネアンデルタール人の遺伝子を持たない人間は存在しません。

つまり、ややこじつければ、私たち自身がネアンデルタール人の直系子孫でもあるのです。

この観点からみれば、ネアンデルタール人は絶滅したのではなく、人類とのハイブリッド種に変化したと言えるでしょう。

近年、人類の遺伝子に含まれるネアンデルタール人の遺伝子の機能が着目されています。

今年の2月に発表された「研究」では、人類の中に散らばるネアンデルタール人の遺伝子を分析して拾い集め、人類の細胞から作られた人工培養脳(脳オルガノイド)に組み込む試みが行われ、非常に興味深い結果が得られました。

どうやら私たちに眠るネアンデルタール人の遺伝子は、私たちの脳の発達に影響を与えているようなのです。

※最後になりましたが、本研究によって捕えられたベニハシカラスは研究者によって全て解放されています。

参考文献
Scientists pretend to be Neanderthals to explore how they caught birds in caves for food
ネアンデルタール人絶滅の謎の解明に手がかり —ヨーロッパ最初のホモ・サピエンスの投射技術の解明—

元論文
Night Capture of Roosting Cave Birds by Neanderthals: An Actualistic Approach
The earliest evidence for mechanically delivered projectile weapons in Europe
Reintroduction of the archaic variant of NOVA1 in cortical organoids alters neurodevelopment

提供元・ナゾロジー

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