太陽系の惑星の仲間からは外されてしまいましたが、冥王星は太陽系の遠い軌道を回る興味深い天体として、現在も観測が行われています。
米国サウスウエスト研究所(Southwest Research Institute:SwRI)が主導した天文学チームは、米国とメキシコの広い地域に望遠鏡を展開し、冥王星が背後の恒星を隠す現象を利用して、一時的な逆光からその大気量を測定することに成功しました。
その結果、冥王星の大気密度は以前の観測よりも低下しており、冥王星が太陽から離れていくことで大気が表面で再凍結するという有力な証拠を発見したのです。
この成果は、10月4日に『第53回米国天文学会惑星科学部門年次総会( the 53rd American Astronomical Society Division for Planetary Sciences Annual Meeting)』で発表されています。
星の逆光を利用した観測
天体が別の天体の前を通過して隠すことを「掩蔽(えんぺい)現象」、または「星食」と呼びます。
この現象を利用すると、冥王星が背後の恒星を隠したとき一時的に発生する逆光から、冥王星の大気状態を調べることができます。
1988年以降、天文学者たちは、この観測方法によって定期的に冥王星の大気変化を観測していて、2015年にはNASAの探査機「ニューホライズン」によって詳細な大気密度が測定されました。
これらの観測からは、冥王星の大気がおよそ10年ごとに倍増しているという傾向が確認されていました。
しかし、2018年に行われた掩蔽(えんぺい)現象を利用した冥王星の観測からは、この大気の増加傾向がなくなっているとわかったのです。
掩蔽現象は約2分間続きます。
この間、背後の恒星の光は大気中を通って減衰し、また徐々に明るさを戻していくため、U字型の光度曲線が確認されます。
しかし、ときおりこのU字型の光度曲線の中央に、「セントラルフラッシュ(central flash)」という光度が急に上がるスパイクが確認されることがあります。
これは、恒星が冥王星の完全に背後に隠れた状態の時、冥王星を包む大気によって恒星の光が屈折し、まるでレンズの様に機能して、一時的に地球へ向かう光を集中させることで発生する現象です。
大気により屈折した光なので、このセントラルフラッシュの強度からは冥王星の大気密度が分析できるのです。
2018年の観測で確認されたセントラルフラッシュは、これまで誰も見たことがないほど強いものでした。
そしてそれは冥王星の大気密度が、これまでの観測より低下していることを示す証拠だったのです。
しかし、これまで増加傾向が確認された冥王星の大気が、なぜ2018年の観測では低下していたのでしょうか?
それは冥王星の軌道に秘密があります。
冥王星の大気が薄くなっている原因
太陽から非常に遠い冥王星の公転軌道は、とても長く、太陽を一周するのに地球時間で248年かかります。
つまり観測開始以降、まだ誰も冥王星が太陽を一周したところを見ていないのです。
また、その軌道は楕円形で太陽との距離も大きく変化します。
冥王星軌道では、もっとも太陽に近いときの距離は30天文単位(地球-太陽間距離の30倍)で、もっとも太陽から遠ざかるときの距離は50天文単位になります。
冥王星の大気は、地球同様ほとんどが窒素で構成されていますが、大気を支えているのは表面の氷の蒸気圧です。
冥王星の温度が高くなると、表面で凍りついている窒素が昇華して冥王星の大気密度を上昇させますが、逆に表面温度が下がると窒素が再凍結して大気密度は下がると予想されるのです。
ただ、ここ四半世紀(25年)の間、冥王星はずっと太陽から遠ざかるコースにありました。
にも関わらず2015年までの観測では、冥王星の大気密度は上昇傾向にあったのです。
これが、単純な予想を覆している問題でした。
しかし、今回、冥王星の大気密度が低下していることが確認されたことから、SwRIのレスリー・ヤング博士はその理由を次のように説明しています。
「これはいわゆる熱慣性と呼ばれる現象によるものだと考えられます。
この現象を例えるなら、太陽がビーチの砂を温めるときを考えるといいでしょう。
太陽の光は正午にもっとも強くなり、その後は徐々に弱まっていきますが、ビーチの砂は午後の間も熱を吸収し続けるため、午後の遅い時間にもっとも熱くなります。
冥王星の大気密度が太陽から離れていても上昇を続けていた理由は、これと同様に冥王星の表面にある窒素の氷は、地表の熱によって温められていたと考えられるのです。
今回のデータは、その熱慣性が終わり、ついに冥王星が冷え始めたことを示しているのです」
公転周期が248年もある冥王星は、まだ誰も太陽の周りを一周したところを観測していません。
そのため、公転軌道の位置によってどんな変化が起きるのかは、現在進行系で明らかにされている天文学の研究なのです。
冥王星は2006年にはじめて惑星の定義が決定されたことで、惑星の仲間から除外されてしまいました。
この定義では、軌道上でもっとも大きな質量を持つことで、他の天体を排除していることが含まれています。
冥王星はこの定義から外れたため、準惑星になってしまいましたが、未だにそのことに反発する天文学者やNASAの関係者もいます。
惑星ではなくなっても、冥王星がいつまでも魅力的な天体であることは確かなようです。
参考文献
SwRI SCIENTISTS CONFIRM DECREASE IN PLUTO’S ATMOSPHERIC DENSITY
提供元・ナゾロジー
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