カゲロウは数時間で死ぬように体が作られています。
はかなく飛び回るカゲロウには口がなく、腸もないため、一切のエサや水をとることができないんです。
地球上には様々な虫が存在しますが、口がない虫というのはカゲロウの他に存在しません。
また飛行速度も非常におそく、鳥・コウモリ・魚など様々な動物にとって格好の獲物になります。
魚釣りに使われる疑似的なエサの多くが、カゲロウをモデルにしていることからも、その捕食されっぷりがうかがい知れます。
そんな弱々しさやはかなさの代名詞にもなっているカゲロウ。
しかしカゲロウは3億5000万年前から地球に生き続けている、生きている化石なのです。
そして彼らが何億年もの間、種として生き残れてこれた秘訣は、まさにこの弱さにありました。
弱肉強食の自然界で弱さを武器に生き残ってきたカゲロウの生存戦略とは、いったいどんなものなのでしょうか?
カゲロウ誕生の歴史から紹介していきます!
カゲロウは最初に飛んだ虫
近年の研究により、昆虫がうまれたのは4億8000万年前であることが明らかになっています。
地球上の種の数が劇的に増加したカンブリア爆発が起きたのが5億年前であることから、昆虫の誕生がいかに早かったかがわかります。
昆虫が誕生した当時、陸上には、やっとコケ類が増え始めたばかりであり、背の高い植物は存在していませんでした。
そんな世界で、昆虫は最初の陸上動物として生活をはじめることになります。
転機が訪れたのは4億年前。
この頃になると植物もコケだけでなく、丈のあるシダ類の先祖もあらわれはじめます。
つまり、昆虫たちの生活の場がより立体的になってきたのです。
すると、昆虫たちの中に、ハネをはやして飛び回るものたちがあらわれました。
旧翅類(きゅうしるい)と呼ばれる彼らは、地球で最初に空を飛んだ最も原始的な昆虫とされています。
現在の地球上で旧翅類に分類される虫は2グループしか存在しません。
1つは恐竜の時代に大型化したことが知られているトンボ。
そしてもう一つがカゲロウでした。
しかし近年になりトンボよりカゲロウのほうがより古い昆虫であるとされるようになり、その場合、カゲロウは最初に空を飛んだ生物の、最後の生き残りとなります。
カゲロウが成虫になるまで
カゲロウはその寿命の短さで有名ですが、口もない生命が延々と子孫を残すことなど本当にできるのでしょうか?
答えは当然NOです。
実は数時間しか生きられないのは成虫となったカゲロウのみ。
原始的な昆虫であるカゲロウはトンボと同じく、幼虫時代を水の中で過ごします。
幼虫時代のカゲロウにはちゃんと口があり、脱皮を繰り返しながら2年ほどをかけて大きくなっていきます。
幼虫時代が寿命の大半を占めるという点では、セミに近いものがあります。
しかし、カゲロウが幼虫から成虫になる過程はセミとは比べ物にならないほど極めて特殊です。
成長しきった幼虫は水から這い出てハネのある姿に羽化して飛び回るのですが、実はさらにもう一度、脱皮します。
セミやチョウで例えるならば、抜け殻やサナギから羽化して飛び回っている状態で、さらに追加で脱皮を行うことになり、その特異さが際立ちます。
ハネがはえて飛べる状態で脱皮を行う虫はカゲロウしかいません。
なんとも奇妙な生態です。
しかし昆虫の先祖の姿により近いのは、原始的な姿を留めるカゲロウのほう。
新参者のセミやチョウのように水生時代がなく、ハネが生えるまで1回しか変化しないほうが、非オリジナルであるとも言えます。
しかしそうであるならば、昆虫の始祖はいったいどんな存在であったかが気になります。
幼い頃は水辺で過ごし、ハネがはえてたあとも脱皮を行う。
いったいどんな環境が、昆虫の祖先をそのような生活形態にさせたのでしょうか?
多くの昆虫研究者を悩ませてきたこの問題はいまだ解決されていません。
しかしカゲロウを研究することで、何かヒントがつかめるかもしれないのです。
次はカゲロウが進化ともに捨てた、とんでもない生態2つを紹介します!
カゲロウは食も眠りも捨てた
成虫となったカゲロウは弱くはかない存在なのはさきほど述べたとおりです。
しかし弱肉強食の世界で単に弱くあり続けることは許されません。
それはカゲロウも同じ。
3億5000万年も弱々しいまま命脈を保ってきたカゲロウには想像もつかないような強みがなければ、帳尻があわないのです。
ではその強みとは何か?
それが冒頭にも述べた、口を捨てて食べないことでした。
口がなければエサを食べられず直ぐ死ぬという圧倒的な弱さをうみだします。
しかしカゲロウはその弱さの中に活路を見出しました。
つまり、食べる必要がなければエサを探す時間も労力も、その間に天敵に襲われる危険もカットできるという険しい道です。
同様に、カゲロウは睡眠の無駄を省きました。
最新の研究によって脳がないヒドラやサンゴのような原始的な動物にも睡眠が必要であることが判明しましたが、寿命が数時間しかないカゲロウにとって睡眠は不要です。
食事と睡眠を切り捨ててまでカゲロウが求めたのは何か?
それは性欲でした。
水辺から這い出て二度の脱皮を経て成虫となったカゲロウは水面の上を飛び回りながら、文字通り寝食を忘れて交尾を繰り返します。
交尾を終えると、オスはそのまま水面に落ちて死にます。
一方、メスは水面に着地して卵を産みます。
卵は水の比重より僅かに重く、産み落とされると水底に沈んでいきます。
もちろん、このときのカゲロウは魚に取って絶好の獲物です。
しかしカゲロウは群れで一斉に成虫になって交尾をするために、何匹かは生き残って卵を投下できるのです。
先に死んで水面に浮いているオスも、デコイとしてなお役立ちます。
弱さに徹して生き延びる
カゲロウは弱く儚い生き物です。
しかし弱さに徹して、生物としてオキテ破りともいうべき、食と眠りの放棄を行い、全てを生殖に費やした結果、じつに3億5000万年という永きにわたる繁栄を勝ち取れたのです。
カゲロウの捨ててはならないものを捨てる生きざまは、三葉虫や恐竜とは異なり、ペルム紀と白亜紀に起きた大絶滅を生き延びることを可能にしました。
弱きに徹して強くなる。
爪も牙も毛皮も力もなかった人類が繁栄している現実からも、この奇妙な戦略はもしかしたら、とんでもない可能性の起爆剤になっているのかもしれませんね。
【編集注 2020.12.17 15:00】
タイトルを一部修正して再送しております。
参考文献
ecospark
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功