木星表面を覆う縞模様の中で、特に目を引く大赤斑。

これは何世紀にも渡って維持されている、時速数百kmで吹き荒れる猛烈な嵐の渦です。

ハッブル宇宙望遠鏡は、この嵐の渦を10年以上も観測し続けていますが、そこからこの渦の外周部の風が2009年から2020年にかけて最大8%も加速しているという事実を発見したのです。

一体この発見にはどんな意味があるのでしょうか?

この研究に関する論文は、8月29日付で科学雑誌『Geophysical Research Letters』に掲載されています。

目次

  1. 木星の嵐の渦
  2. これは意味があるのか?

木星の嵐の渦

木星は赤茶色の縞模様が特徴的ですが、これらはすべて木星上空に浮かぶ雲であり、猛烈な勢いの風にのって惑星を吹き荒れています。

そんな木星の表面で有名なのが、赤い染みのように浮かぶ「大赤斑」と呼ばれる領域です。

これは木星大気圏で荒れ狂う巨大な嵐で、一説によると300年前から観測されているといわれています。

木星のサイズ感がよくわからないで見ているとそれほど大きくは感じないかもしれませんが、大赤斑の大きさは地球のほぼ2.5倍です。

地球の直径は1万2756キロメートルで、大赤斑の大きさは約3万9000キロメートル×1万4000キロメートルとされています。

木星の赤い斑点の渦はここ10年で加速していた
(画像=木星大赤斑と地球をだいたい同じ縮尺で並べた画像 / Credit:NASA / ESA、『ナゾロジー』より 引用)

この飛んでもなく巨大な長期間続く木星の嵐は、風速が時速約650km(秒速350m)もあり、気温は-140℃というからすごい環境です。

大赤斑は循環する木星の風の隙間に生じていますが、これがどういった理由で発生したのか? どんな構造をしているのか? はまだ良くわかっていません。

地球の台風にも似ていますが、台風と呼べる構造の嵐なのかどうかもよくわかっていません。

そのため、ハッブル宇宙望遠鏡は定期的にこの大赤斑の観測を続けています。

そんな中で新たに発見されたのが、大赤斑の風速が中央と外周部で変化しているということでした。

木星の赤い斑点の渦はここ10年で加速していた
(画像=木星大赤斑の風を示した画像。中心付近と外周部では風速が異なっており、外周部は加速しているようだ。いずれも反時計周りに回転している。 / Credit:hubblesite,HUBBLE SHOWS WINDS IN JUPITER’S GREAT RED SPOT ARE SPEEDING UP、『ナゾロジー』より 引用)

ハッブル宇宙望遠鏡の2009年から2020年にかけてのデータを比較したところ、嵐の外周部の風速は10年間で約8%も上昇していることがわかったのです。

嵐の中心部はずっと速度が遅く、のんびりクルーズを楽しんでいるような速度しか出ていない、とハッブルのサイトでは説明されています。

しかし、この嵐の回転が10年で8%加速したという情報には何の意味があるのでしょうか?

これは意味があるのか?

木星の赤い斑点の渦はここ10年で加速していた
(画像=ボイジャー1号から撮影された大赤斑(1979年) / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

今回の解析を主導したカリフォルニア大学バークレー校のマイケル・ウォン氏は、今回の発見について次のように語っています。

「この結果を最初に見たとき、私は『これは、なにか意味があるんだろうか?』と聞き返してしまいました。

しかし、これはまだ誰も気づいたことのない、長期間運用を継続してきたハッブル宇宙望遠鏡が、継続的に観察したからこそできた発見だと考えました」

地球の嵐の風速が詳細にデータを出せるのは、人工衛星や飛行機がリアルタイムに嵐を追いかけ綿密な観測を行っているからです。

木星には、そんな観測を行うものは何もありません。

ハッブルによって測定された大赤斑の風速の変化は、地球の1年間あたり時速2.5km以下でした。

これはハッブルの11年分のデータがなければ気づけないほど小さな変化です。

木星の風を、時間的にも空間的にもこれほど詳細な解像度で捉えることができるのは、ハッブル宇宙望遠鏡だけなのです。

そこでウォン氏は、ハッブルの観測した豊富なデータをよりよく分析するために、数万から数十万の風ベクトル(方向と速度)を追跡するソフトウェアを開発しました。

これにより、より一貫した速度測定が可能となり、実際に木星大赤斑の外周部の風速が増加しているという、事実を確認できたのです。

しかし、なぜ大赤斑の風速は増加していたのでしょうか? それの意味することはなんなのでしょうか?

その意味を明らかにするには、まだやるべきことが多くあり判断は難しいと研究者は語ります。

ただ、それは嵐を駆動するエネルギーがどうやって起きているのか、何がそのエネルギーを維持しているかを理解するための興味深いデータになります。

天文学者はもう何百年も木星の嵐を研究し続けています。

大赤斑は、木星内部の物質が上昇してできたもので、横から見ると中心部が高く、外側のそうに向かってそれが流れ落ちているウエディングケーキのような構造であることがわかっています。

そして1世紀以上に渡る観測から、それが徐々に大きさを縮小していて、楕円から円形に近づいていることもわかっています。

(とはいえ、それはまだ地球よりずっと巨大です)

海王星などで観測される嵐は、だいたい数年で消滅する傾向があります。

木星の大赤斑についてはまだほとんど何もわかっていませんが、見ることができない分厚い木星の雲の下で、何が嵐を駆動しているのか、他の惑星の嵐と何が違うのか、その結論を出すために、今回の発見はきっと役に立つことでしょう。


参考文献
HUBBLE SHOWS WINDS IN JUPITER’S GREAT RED SPOT ARE SPEEDING UP

元論文
Evolution of the Horizontal Winds in Jupiter’s Great Red Spot From One Jovian Year of HST/WFC3 Maps


提供元・ナゾロジー

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