老後も賃貸住宅に住み続けるべきか、引退する前に住宅を購入しておくべきかを考えることがあるだろう。持ち家と賃貸住宅、どちらが自分のライフスタイルに合っているかを見極めるために、それぞれにかかる費用やメリット・デメリットを確認してみよう。

老後も賃貸に住む人はどれくらいいる?夫婦世帯は12%

内閣府発表の高齢社会白書(平成30年版)によると、賃貸住宅に住んでいる人の割合は、高齢者夫婦のみの世帯では12.4%、高齢者単身主世帯では33.8%だ。老後も夫婦で賃貸に住み続ける人は少数派だが、一定数いることがわかる。

老後も賃貸に住む場合どれくらいかかる?持ち家の場合と比較

老後も賃貸に住む場合、どれくらい費用がかかるのだろうか。首都圏に在住の60歳の夫婦2人が女性の平均寿命である87歳まで28年間生活すると仮定してシミュレーションしてみよう。

賃貸の場合……総額3,800万円

東京圏の場合、1LDK~2LDKの家賃相場は10万9,143円だ。2年ごとの契約更新時に家賃1ヵ月分の更新料がかかるとすると、28年間の総費用は以下のようになる。初期費用は首都圏の相場と言われている家賃5ヵ月分で計算した。

【賃貸住宅の28年間の総費用】

初期費用(敷金・礼金等) 54万5,715円
(10万9,143円×5ヵ月)
住居費用 3,667万2,048円
(10万9,143円×12ヵ月×28年)
更新費 141万8,859円
(家賃1ヵ月分×13回)
28年間の合計 3,863万円6,622円

家賃が約10万円の賃貸に住む場合、老後は住居費だけで約3,800万円かかる計算だ。

賃貸住宅に住むメリットは、固定資産税などの税金を払う必要がないことだ。借主が亡くなった場合、残された家族が相続税を支払う必要もない。また、ローンを組む必要もない。過去に返済が滞ったり債務整理をしたりして、ローンを組むのが難しい人には賃貸住宅が向いていることになる。

一方、賃貸住宅の最大のデメリットは、家賃を払い続けなければならないことだろう。借主の支払い能力や健康状態などの懸念によって、年を取ってからは賃貸住宅を借りにくいことも事実だ。

もし、住んでいる賃貸住宅の建て替えなどで退去を余儀なくされた場合、新たな住まいがなかなか見つからない可能性も十分に考えられる。老後資金や老齢年金で家賃を払い続けられるかどうかを考えておいたほうがいいだろう。

持ち家の場合…一戸建てとマンションで大きく異なる

一方、持ち家に住み続ける場合はどうだろうか。すでにローンを完済しているという前提で、一戸建てとマンションの場合の維持費用の総額を見ていこう。

・一戸建ての場合……総額967万円
土地60平方メートル、建物90平方メートル、木造2階建ての新築一戸建ての場合。

【一戸建ての28年間の維持費用】

固定資産税(※1) 266万1,764円
(5万3,063円(土地)+4万2,000円(家屋)×28年)
都市計画税(※2) 84万9,184円
(1万2,328円(土地)+1万8,000円(家屋)×28年)
修繕費(※3) 556万円
火災保険料など(10年間) 約60万円(約20万円×3回)
28年間の合計 967万948円
※1.固定資産税は「土地と家屋の固定資産税評価額×税率1.4%-軽減額等」で計算
※2.都市計画税は「土地と家屋の固定資産税評価額×税率0.3%」で計算
※3. アットホーム「一戸建て修繕の実態調査」の結果より平均値を引用

・マンションの場合……総額1,732万円
建物・土地がそれぞれ3,000万円の評価額である新築マンションの場合。

【マンションの28年間の維持費用】

固定資産税(※1)(※2) 784万円
(21万円(土地)+7万円(家屋)×28年)
管理費 536万1,216円
(1万5,956円×12ヵ月×28年)
修繕積立金 412万2,048円
(1万2,268円×12ヵ月×28年)
28年間の合計 1,732万3,264円
※1.固定資産税は「土地と家屋の固定資産税評価額×税率1.4%-軽減額等」で計算
※2. 新築~築5年までは固定資産税が1/2に軽減される措置を適用

一戸建てとマンションは賃貸よりもかかる費用は少ないが、マンションのほうが維持費用は800万円ほど高くなっている。

持ち家の大きなメリットは、ローンを完済してしまえば月々の支払いがなくなることだ。一戸建てであれば毎年の固定資産税や修繕費用、マンションであれば管理費と修繕積立費が必要となるが、一般的に同等の賃貸住宅の家賃よりは少ない。

一方持ち家のデメリットは、初期費用が高額になることだ。住宅を購入する際は、頭金とローン以外にも、税金や住宅ローンを借りるための諸費用、仲介手数料など各種費用がかかる。

購入する物件やローンによって異なるが、諸費用の目安は新築マンションで物件価格の3~5%、中古マンションや一戸建てで物件価格の6~13%とされている。3,000万円の新築マンションであれば、90万~150万円ということになる。

家賃にもよるが、老後の費用負担だけを考えれば持ち家よりも賃貸のほうが負担はかなり大きくなる。老後に家賃を払い続けられるかどうか不安であれば、持ち家を購入することを検討してもいいだろう。

その際は老後に負担を抱えないよう、ローンは60歳前後までに完済できるように早いうちに資金計画を立てておきたい。できるなら40代のうちにローンを組んでおいたほうが安心だ。

老後も賃貸に住み続けるメリット・デメリット

老後も賃貸に住み続ける場合、金銭面以外にどんなメリット・デメリットがあるのだろうか。

賃貸のメリット…住み替えが容易、初期費用が少ない

賃貸住宅に住む大きなメリットは、住み替えが容易であることだろう。家族の人数などの変化にも柔軟に対応できる。転職などで年収が下がった場合は、家賃の安い家に移ることもできる。またローンを組む必要がないため、返済できなくなるというリスクもない。地震や水害などの災害による資産の目減りや、修繕を気にする必要がないこともメリットと言えるだろう。

賃貸のデメリット…資産として残らない、リフォームができない

賃貸のデメリットは、自身の資産として残らないことだ。賃貸であっても、長く住めば持ち家を購入した場合と同程度の家賃を払うことになるだろう。持ち家の場合は売却して現金化したり、子どもに相続したりすることができるが、賃貸住宅は、家賃をいくら払ったとしても自分のものにはならない。

また、自分の家ではないので、家主の許可なくリフォームすることはできない。老後の生活で家の設備に不便を感じても、リフォームという手段を選べないため、転居を検討するしかないのも難点だ。

老後も持ち家に住み続けるメリット・デメリット

それでは、持ち家に住み続けることにはどのようなメリット・デメリットがあるだろうか。こちらは、賃貸に住むメリット・デメリットと表裏一体だ。

持ち家のメリット…自分の資産になる、リフォームなどが自由にできる

賃貸住宅は、いくら家賃を払っても家が自分の物になることはない。資産価値のある持ち家であれば、自分の裁量でいざという時には売却して現金にすることもできる。希望通りの価格で売却できれば、新たに住宅を購入することもできる。

また自分の家なので、不便を感じるところは好きなようにリフォームをすることができる。ただ、リフォームには費用がかかることも覚えておこう。戸建てで約269万円、マンションで約262万円が平均予算だ。資金計画はしっかり確認しておきたい。(一般社団法人住宅リフォーム推進協議会の「平成31年住宅リフォーム潜在需要者の意識と行動に関する調査」より)

他にも、一定の広さがあれば将来は子どもと同居できることもメリットと言えるだろう。

持ち家のデメリット…住み替えが難しい、マンションの場合は自分の意志が通らないことも

持ち家のデメリットは、住み替えが難しいことだ。メンテナンス、リフォームなどにかけられる費用がなければ、設備などに不満があっても住み続けなければならない。

また、マンションの場合は建て替えやリフォームを行いたくても、他の入居者の合意が得られず、建て替えられないケースもある。また、自身が建て替えを希望していなくても、建て替えが決まれば費用負担が生じることもデメリットだ。

老後は「高齢者用賃貸」に住むという選択肢

「持ち家を持たない」という選択をする人は、老後は「高齢者用賃貸」に住むという選択肢もあるだろう。

高齢者向けの賃貸住宅に、「サービス付き高齢者向け住宅」がある。これは高齢者が単身、または夫婦で住めるバリアフリー構造の賃貸住宅で、安否確認・生活相談サービスを受けられる。ケアの専門家が少なくとも日中は常駐していて安心だが、賃料はやや高い。老後資金が十分ある場合は検討してもいいだろう。

UR賃貸住宅も、各種の高齢者向けの賃貸住宅を扱っている。件数は少ないが条件を満たせば入居でき、賃料も民間の賃貸住宅に近いため、老後でも安心だろう。世帯で申し込みする場合のUR高齢者用賃貸住宅の種類と、入居資格を以下の表にまとめたので参考にしていただきたい。
 

高齢者用
賃貸住宅の
種類
特徴 入居資格
高齢者向け
優良賃貸住宅
・団地の一部の部屋を
高齢者向け設備に改良
・所得によって家賃負担の
軽減措置あり
・申込者が満60歳以上
・月収が家賃の4倍あること(※1)
高齢者等向け
特別設備改善住宅
・一部住戸内浴室の
段差の緩和や設備を改善
・連絡通報用装置あり
・申込者が満60歳以上または
障害者の方
・月収が家賃の4倍あること
(※1)
健康寿命
サポート住宅
・転倒の防止に配慮した
住宅改修
・高齢者向け屋外空間や
豊富な社会参画の機会を準備
・申込者が満60歳以上
・月収が家賃の4倍あること
(※1)
シルバー住宅 ・生活援助員による
入居者の生活サポートあり
・緊急通報装置等の
セキュリティシステムあり
・自立可能かつ満65歳以上
・月収が家賃の4倍あること
(※1)
URシニア
賃貸住宅
(ボナージュ)
・高齢者向けの設備あり
・保険、信託への加入
サポートあり
・申込者が満60歳以上
・月収が家賃の4倍あること
(※1)
※1.家賃が月額8万2,500円未満の場合(月額8万2,500円以上20万円未満の場合は33万円(固定)、20万円以上の場合は40万円(固定))

老後も賃貸に住むかどうかはよく検討し早めの準備を

今後のライフスタイルの変化や、将来どのように過ごしたいかによっても、自分に合う住まいは変わってくる。賃貸住宅に住んで老後も家賃を払い続けるにしても、これから住まいを購入するにしても、総額で考えると相当な金額を住居費として使うことになるので、できるだけ早いうちから資金を用意しておくことも大切だ。

文・MONEY TIMES編集部
 

【関連記事】
「快適な老後」を送るには借金を何歳までに完済すべき?専門家のススメ
老後の移住で人気の都道府県は?移住で後悔しないためのポイントを解説
老後資金の目安は2,000万円?実際の不足金額をシミュレーション
老後に不安を抱える人は8割超 今からできる老後のお金の準備方法をFPが解説
老後資金、足りない場合どうすればいい?確実に不足する場合の3つの対処法